第35話 ヴィヴィー、ゲットだぜ
「なるほど、な。理解した」
「何が?」
俺は若干顔を引き攣らせながら頷く。
ギャーギャー騒ぐ低身長赤毛ボブの女子ことヴィヴィー。
彼女の余りに酷い言動。だが、そのお陰で一つ気づくことができた。
「どうして俺とアノイが同じチームになったのかが疑問点だった。対抗戦……幾ら連携を測ることが主目的であっても戦力過多であることは間違いない」
「だな。最悪代わる代わるで魔法撃ちゃ連携もできるし」
「あぁ。だがヴィヴィーの言動で気づいた」
「あたしの……?」
俺が二人の目を見て、深刻そうな表情で語りかける。
どこか場には緊迫した空気が満ち、俺の言葉の続きを待っていた。
「俺たちは──とことん相性が悪い」
「見りゃ分かるわ!!!」
アノイがビシッとツッコミを入れる。
でしょうね。
逆にどう見たら相性が良いように見えるのか教えて欲しいくらいだ。
「まあ、それはそうだが、下手に戦力を分散したチームよりも、我が強いメンバーが集まったチームの方が連携が難しい。対抗戦の課題を目の前に突きつけられているな」
「あたしは我弱いよぉー! ただの普通の下級貴族だし! 公爵家と伯爵家の君らに何もかも勝てるわけないじゃん!?」
「言動で言えばお前が一番我が強い」
「う゛そ゛だ゛!」
俺たちはそんなに愉快な性格をしてないからな。
ヴィヴィーは一見凡庸に見える。失礼極まりないが、際立った容姿でもなく、どこにでもいそうな少女だ。
しかし蓋を開けてみれば、随分愉快な性格をしている。
そうだな……乙女ゲーの主人公的な。
……いや、乙女ゲーの主人公でこんなに頭おかCやついないか。
「ヴィヴィーはなぜ対抗戦が嫌なんだ?」
「え、だって絶対に足引っ張るし、クラス一の問題児と言葉遣いカスなヤンキー崩れと一緒のチームとか嫌じゃん」
「忌憚無いにも程があるだろ。てか、誰がヤンキー崩れじゃゴラ!!!」
「そういうところだろう」
「せめててめぇは味方になれや!!」
ヴィヴィーは嘘は言ってないからな。
問題児という自覚はあるし、アノイの言葉遣いがヤンキー崩れなのも今更だ。
とは言え、身分でグチグチ言ってきた割には随分とイカれた物言いをするものだ。
本当に相性悪い人間同士を組ませたらこうなる、みたいのが今目の前で繰り広げられていると思う。
「落ち着け。俺が問題児なのも、アノイの言葉遣いが悪いのも今更だ」
「おい」
「んー、冗談だって。でも、元々来る予定の無かった王立学園に来ちゃって、イベント全てが嫌なのは本当。叶うなら退学したいけど、そうしたら多分親にぶっ殺されるしなぁ……」
「だがなぁ、折角王立学園に受かったんならそこで全力出しゃ良いだろ? 卒業後はある程度のポストに就ける。給与だって十分なはずだし」
「誰しもが君みたいに学園にいる自分に誇りを持ってるわけじゃないよ。あたしは人生緩く生きたいの。親に言われたから記念受験程度で王立学園を受けたし、わざわざ汗水垂らして努力するとかあたしのポリシーに合わないね!」
そう言い切ったヴィヴィーの言葉に嘘はなかった。
やる気も夢も、ヴィヴィーの表情からは見出だせない。
本気で王立学園に来ている者にとって、きっとヴィヴィーの言葉は癪に障る。アノイだって、血の滲むような努力の果てにここにいる。
しかし、意外にもアノイは呆れた表情で耳を掻きながら言った。
「まァ、ゼノンとの決闘で、周りに対する目の向け方を変えた。意外にも本気で人生注いでる奴は少ない。だからてめぇのそのスタンスはある意味正しい。だけどな、俺は全力でやってんだ。何事も負けたくねぇし、王立学園生として誇りを持ってる。それを押し付けるつもりはねぇ…………いや」
アノイはニヤリと、それこそ泣く子も大絶叫する極悪な笑みを浮かべ──
「──わりぃ、嘘だわ。押し付ける。全然押し付ける。付き合ってもらうぞ、対抗戦。言っておくけど強制な。断ったらお前の親父さんにチクる」
「陰湿ぅ!? 最終手段脅しってマ!? そんなヤンキーみたいな格好と言葉遣いで、実力行使が貴族式って酷くない!? ギャップ萌えどころかギャップで殺したくなるけど!!」
何言ってんだ。
まあ、多分ハッタリだな。少しの付き合いだが、周りよりも彼のことは知っているつもりだ。
全然やりそうな見た目と言葉遣いだが、意外にもアノイは常識人かつ、本当に人が嫌がることはやらない。これでもヴィヴィーが嫌がるようであれば別の手段を取るだろう。
……どれ、俺も最終手段を取るとしようか。
「ヴィヴィー」
「なに!!!!」
「王立学園を卒業せずに実家に戻った場合の末路を教えよう」
「え?」
「8割地方貴族の嫁に出される。残り2割は地方貴族の下女だな」
「え、あたし5女だよ?」
「関係ない。余計下女の確率が上がるだけだ。ちなみに、どれだけ良い環境の貴族の嫁だろうと、花嫁修業は至難を極め、自由な時間などほとんどない。許される趣味は裁縫や紅茶集め、ガーデニングのみ。下女になれば1日中働き詰めの毎日。例え嫌になって夜逃げしたところで、身分の保証も先立つものもないだろう。貴族上がりの少女など恰好の餌だ。大抵騙される」
「聞きたくない聞きたくない聞きたくない〜〜〜〜!!!!! うそだ!!! 冒険者とかになれる、って聞いたもん!!!」
「それを許すのは大抵上級貴族かつ、特殊な事情がある場合のみだ」
「なん……だと」
ヴィヴィーは絶望の表情を浮かべた。
余り知れ渡っていないことだからな。緩い実家生活に夢を見るのも仕方ながない。この様子なら親に溺愛されているようだし。
しかし幾ら溺愛されようと貴族の当主。慣例を守って、心を鬼にして嫁に出すことだろう。それは間違いない。
「そこで、だ。最低限王立学園を卒業してしまえば、冒険者になることも許される。地方貴族に嫁を出すよりも、自家で王立学園卒の冒険者としてコネクションを持つ方が有利だからな。まあ、当然冒険者になろうとサボることは許されないが……。諦めることだ。少なくとも王立学園を卒業した方がお前の人生は明るいぞ」
「──何やってんだ君たち! 対抗戦頑張るぞぉーー!!! おおおおお!!!」
「「…………」」
大丈夫かなコレ。
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