第34話 クラス対抗戦

「皆さん。入学してから三ヶ月が過ぎました。勉学に勤しみ、決闘や修練場を活用し、実力を伸ばしている方も多いでしょう」


 ある日のホームルームはいつもと違う始まり出しだった。

 ただし、ゼロの纏う雰囲気がピリッとしているのもあり、生徒たちは傾聴の姿勢へと移り変わっていた。


「ですが、それはあくまで個人戦の場合。いずれ、自分一人の力だけではどうしようもなくなる出来事が起きることでしょう。そこで今回──クラス対抗戦を開催する運びとなりました」


 クラス対抗戦か……。

 皆一様と疑問符を浮かべる中、俺は独りでに理解した。

 原作で起きたイベントの一つだな。

 

「クラス対抗戦は、クラスで三人一組の小グループを形成し、他クラスと決闘形式で勝負するイベントです。しかし、勝てば良いという話ではありません。このイベントを開催した目的は、即席のチームでどれだけの連携を生み出すことができるのか。それが一番です。なので、勝負では我々教師陣が勝敗とは別に連携の緻密さを採点いたします。その合計点で優勝クラスが決まるというわけです」


 そう。

 ネックなのが、幾ら個人技が優秀であっても優勝できないという点だ。優勝するには教師陣のポイントを稼がなくてはならない。

 連携することが必須なのだ。

 しかも、チームの発表から対抗戦までは三日しか時間がない。その間に戦術等を決めなければ詰む。

 誰かを際立たせる、ではない。全員が輝けるような試合運びが必要なのだ。


「この後すぐにチームが発表されます。対抗戦は三日後。それまでにチームワークと戦術を決めておくと良いでしょう。以上です」


 ゼロはそれだけを言い、教室を後にする。

 当然生徒たちはざわめき「三日後? 早くない?」「集団戦とか知らね〜」など戸惑う声が多く聞こえた。


「なあ、ゼノン。俺たちが同じチームになることは多分ねぇよな?」

「だろうな。戦力を偏らせるような真似はしないだろう」

「残念」


 ユノとパトリシアがへにょりと眉を下げる。

 まあ、当然だな。

 俺としても良く知っている二人が同じチームであれば心強いが、それでは対抗戦の趣旨にそぐわない。


「お、黒板にチーム表示されてる。見に行こうぜ」

「そうだな」


 そういう魔法なのか、黒板に文字が浮かび上がる。

 時間差で発表されるシステムなのだろう。


 どれどれ、俺のチームは……。


ーーーー

第七班

ゼノン・レスティナータ

ヴィヴィー・セスタ

アノイ・ロングレン

ーーーー


「……知らない名前しかないな」

「おいこらてめぇ」


 そう呟いた瞬間、近くにいたらしいアノイが俺の肩をガッと掴んだ。耳聡いやつだな。


「冗談だ。よろしく頼む」

「チッ」


 俺が手を差し出すと、舌打ち紛れに握手を返した。

 一応知っている者で安心だな。首席だし実力も高い。……というか自惚れるつもりはないが、戦力過多ではないか?


 しかし、もう一人のヴィヴィー・セスタという者は良く知らない。確か小柄な女性だったような気がするが……最近はどうも休んでいたような。


「ヴィヴィー・セスタは知っているか?」

「名前だけな。なんか休みがちだし、誰かと仲良い様子もねぇ。早期入学のお前と、首席の俺。まあ、そこに組まされる奴なんて大概問題児か頭おかしい奴だろうな」

「自覚があったのか」

「俺のことじゃねぇよ!!!」

「冗談だ」

「冗談ならもっと冗談っぽい顔で語れや!」


 ポンポンと小気味いい返事が返ってくるものだから、ついついアノイに対してはふざけてしまう節がある。

 ツッコミ気質な彼が悪いな、うん。多分。

 

「話し合わないことには世話無い、が……、休んでいるならどうしようもない」

「そうだな」


 ハァ、と二人してため息を吐いていると、一人の女子生徒がおずおずといった様子で話しかけてきた。


「そ、その……ヴィヴィー・セスタについてなんですけど、同室の先輩が言うにはズル休みらしいですよ……? 基本、図書館の角っこに居座ってるだとか……。ということだけです! さよなら!」

「おい、怖がられてるぞ、首席」

「俺じゃねぇだろ!!! ……待て、俺じゃないよな?」

「言動が粗雑」


 アノイは(´・ω・`)←こんな表情になった。

 見慣れた顔だな。

 ……十中八九俺が怖がれてるだろうが言わないでおこう。


「ハァ、じゃあ放課後図書館に行って確かめるか。ズル休みなら首根っこ掴んで引き戻せば良いだろ」

「休んでいる原因にもよるがな。無理やり連れてきたところで戦力にはならん。特に連携が重要項目の対抗戦で、強制させるのは悪手だろう」

「とは言っても集まらねぇと何も意味ねぇだろ」

「そうだな。一先ず放課後にまた話そう」

「分かった」


 何が原因で休んでいるのか。

 王立学園をズル休みとは、なかなか胆が据わっている。案外大物かも知れないな。





☆☆☆



「いやいやいや、むり! ホントにむり!! そもそも士爵のあたしが学園に入ったのが謎なんだって!! おまけに爵位高い人しかいないし、対抗戦とか良く分からないイベントでやべーやつとやべーやつと同じチームとか!! 無理中の無理!! 足引っ張るだけだから! ゼロ先生にお願いしてチーム変更を要求したい! あーーー、王立学園だるぅ。退学してぇーーーーー」

「「…………」」


 小物だった。

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