第33話 混合魔法
「……どうしたんだ。その隈」
「へへっ、修行したら止まんなくなっちまってよ。もう三徹目。目バッキバキ」
「修行に力を入れるのは仕方ないが程々にしろ。心身ともに健康状態の時にこそ思いつくモノもある」
「おう。今日は授業終わったらすぐに寝る予定」
幽鬼のようにふらふらと登校してきたユノは、ふふふと怪しい笑みを浮かべながら答える。
これは修行に集中しすぎて止まらなくなるやつだな。俺も初期の頃はそうだった。上手く行けばいくほどに修行に没入してしまう。時間を忘れて気づけば朝方だった、なんてのもザラにある。
「二人とも、おはよう。……すごい隈」
「修行のし過ぎだそうだ。今日くらいは授業中寝ていても目を瞑ってやれ」
「私も目を瞑るから、大丈夫。睡眠時間、1時間。ぶい」
「誇るな。揃いも揃って寝不足か。睡眠は心の健康にも影響する。あまり軽視するな」
「「はーい」」
……全然信用できない返事だな。
それこそ前世で課題に追われてた時は徹夜を繰り返したものだが、結果的にはしっかり寝てから課題をこなした方が効率が良い、ということに気づいた。
徹夜はとにかく集中力が保たない。新しいアイデアなど以ての外だ。俺からは寝ろ、としか言えん。
とは言っても寝ないのがこの年代だよな。
「ゼノン、今日はどうするの?」
「修練場を予約している。夕方まで魔法の修行だ」
「私も見学、したい。ダメ?」
「構わん。見られて困るようなことはないからな」
「えぇー、俺も行く!!」
「お前は寝ろ。というかお前達寝ろ」
「「やだ」」
こうして二人が来ることになった。
倒れる前に寝て欲しいが。……いざとなったら【
☆☆☆
授業が終わり、俺たちは修練場へと移動する。
ユノにとっては毎日使っている馴染みの場所だろう。俺はまだ数えられる程度しか使用していない。バカスカ魔法を放つ修行など意味がないし、俺は基本場所を選ばず修行できる。
ユノのように新技を開発する際にはうってつけだが。
「ユノ、ふらふらだぞ。やめておけ」
「へ、へへ……ちょっとだけ。何か……掴めるかもしれねぇんだ。ここに来て行き詰まってる。人の……特にゼノンの魔法にヒントがあるかもしれねぇ。俺はここで立ち止まるつもりはない!!!!!」
力強く宣言したユノの瞳は、隈を覆い隠すほどキラキラ輝いていた。本気だからこそ分かる情熱が灯った瞳。
……こうまで言われちゃ無碍にはできない。
そんなユノを見るパトリシアの瞳も、何かを吸収してやろうという貪欲な姿勢が窺えた。
……俺はハァ……とため息を吐いて、ユノにとある魔法を掛けた。
「【
「ん? ……お? おぉ!? なんか力漲ってきたァァァァァァ!!!! これなら余裕だぜ!!!!」
「調子に乗るな」
「いてっ!」
俺はハッスルするユノの頭を小突く。
そんな都合のいい魔法は……作ろうと思えば作れるだろうが、睡眠が大事だから作らん。
「ただの気休めだ。体は着実に疲労を蓄積する。帰ったら無理をせずに寝ろ。分かったか?」
「へい……。にしても聞いたこと無い魔法だな」
「俺のオリジナル魔法だ。とはいえ戦闘で使えるような魔法でもなし。ようやく出番がやってきたというわけだな」
「戦闘中に、使うのは?」
「ダメだな。疲労に気付けないということは、限界を見極めることができないということだ。戦いの最中でいきなり気を失ってしまうこともあるだろう。使い勝手は悪い」
あくまで疲れを感じさせにくくしてるだけであって、疲れを消したわけじゃない。疲労はヒールじゃ回復しないし、言った通りただの気休めにしかならないだろう。
「さて……修行だ」
「何をする、とか聞いても、良い?」
「あぁ。俺がするのは混合魔法の修行だ」
「「混合魔法?」」
二人は揃って首を傾げた。
そうか。原作では主人公、ゼノン、ノヴァが使っていたが、一般に普及している技術ではないのか。
「混合魔法は、二種の魔法を同時に発動させて組み合わせ、新たな魔法を生み出す……という技術だ。習得に必要な技術は、二つの魔法陣を維持する魔力操作。異なる性質の魔力を掛け合せる微細な感覚だ。俺はその二つの技術を部屋で練習していた。それが形になったから修練場で実践しようと思った。そういうことだな」
「「ほへー……」」
二人は口をポカンと開けている。
イマイチ想像ができていないようなので、俺は実際にやってみることにした。
分かりやすいように既存の魔法でな。
「【
二つの魔法陣を合体させ、一つにする。
そこから生み出されたのは、火が渦巻く暴風。
既存の暴風よりも威力が強く、尚且つ火の影響で破壊力が増している。
発動に少しの時間がかかってしまうのが難点だが、それを補って余りある有用な技術だ。
「今はまだ不可能だが、無口頭で魔法陣を完成させ、混合魔法のみ口頭で威力を底上げするとともに発動速度を上昇させようと思う」
「なるほど、な……。既存でもオリジナルとも言い切れない……でも、魔法の幅は圧倒的に広がるな……。できるかできないかで言ったら多分できるし……うーーん」
早速ユノは考え込んでいるようだった。
ユノなら、多少魔力ロスは激しくなるが取得できるはずだ。才能もそうだが、ユノは諦めずに努力することができる。
努力したものに女神は微笑む。きっとユノを新たな境地へと至らせるだろう。
「混合魔法……うん。参考になる。他には、どんなのがある?」
パトリシアは碧眼と琥珀の瞳を爛々と輝かせ、物理的な距離を詰めてきた。混合魔法は彼女の琴線をいたく刺激したようで、是が非でも物にしたい、という意思が無表情ながらに伝わってきた。
俺としても、ユノとパトリシアが強くなることは歓迎だ。
「そうだな……他には──」
結局その日は予約時間ギリギリまで修行をした。
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