第32話 悪魔の行方
──セレスが見つけた指輪は悪魔が封じられている指輪だ。
見かけ上は何の変哲もない指輪だが、小さく刻印している五芒星。そして、漂う禍々しい魔力が俺の予測を確信にしていく。
どうしてこんな市場で売られているのかは定かではない。何せ、原作ゼノンくんだってどこかの洞窟に封印されていたのを見つけ出して悪魔の力を得たのだから。
こんな王都の市場にあって良い訳がない。
「セレス。【鑑定】の結果は?」
「えーと、封印の指輪、ですね! 物体や魔力とかを封印できる指輪みたいです。でも……なんか使用済みとか、黒ずんで鑑定できない部分もあるんですよねぇ」
「なに……!?」
それはつまり──すでに悪魔の封印が解けている、ということだった。
不味いな……。悪魔が顕現するには、依代が必要だ。悪魔が解放されているということは、その依代に取り憑いているに違いない。
そもそも悪魔とは、この世界の悪が煮詰まった思念体のようなもので、元々実体は存在しない。
指輪を嵌めた者の邪心を解放し、増幅させる。そして、悪魔の意のままに悪事をするようになる。面倒なのが、悪魔に取り憑かれた者は、誰であっても強大な力を得る。
ただの魔法もろくに使えぬ平民とて、悪魔に取り憑かれてしまえば上級闇魔法をポンポン撃ったりしてくる。
そして、取り憑いた先の人間が強ければ強いほど、悪魔が与える恩恵も強力になっていくのだ。
……まだ、ただの平民に取り憑いていたのならば、俺でも対応できる……が、強者に取り憑いていた場合、今の俺の実力では対応不可能。学園長レベルの領域が必要になる。
一体誰が悪魔に……。いや、すでにこの国にいない可能性もあるが、奴は必ず台頭してくる。大勢の被害が出るまでに俺の強化と、協力者が必須になるだろう。
「どうしたんですか?」
「その指輪、危険?」
セレスとパトリシアが、顔を覗き込んで心配した。
俺は頭を振って、店主から指輪を購入する。
「……何でもない。時間も時間だ。そろそろ帰ろうか」
「……うん」
パトリシアは何か言いたげな表情だったが、俺の険しい顔を見て口を噤んだ。……今は悪魔のことを言うべきじゃない。確証が無い以上、変に不安にさせることもないだろう。
☆☆☆
「ねえ、僕はゼノンに勝てると思う?」
暗闇に包まれた部屋。
月明かりだけが差し込む一室で、男は問いかける。その場には男以外誰もいない。
しかしその瞬間、男の影が揺らめいて、人間……のような物に形を成した。
影は大口で笑いながら答える。
「けひひっ、俺の力を使えば簡単サ! 赤子の手をひねるより楽ダ!」
「いや、そうじゃない。僕のみの力で勝てるか聞いてるんだ」
「ほーん……俺はあの決闘しか見てねェから、そこまで実力は把握してねェけど、魔力量的に無理じゃねェカァ? けひっ、だから俺の力を使えヨ!」
「君の力を使ったところで、僕が勝ったって言えないだろ? 君を解放したのは、闇魔法の先生になってもらうためさ」
「ひひ、悪魔を解放して先生になって欲しいなんざ言う奴は初めてダ! どうせお前乗っ取るの無理だしナ! 光魔法極めすぎて俺にとって毒物なんだよてめェ」
楽しげな会話が月光の下で繰り広げられる。
一見、お互いに信頼関係があるように見える。
しかし、影……悪魔の瞳は爛々と輝き、虎視眈々と何かを狙っている様子が窺えた。
対する男も、その悪魔の思惑を知っている上で接しているように見えた。それに、男の瞳には執着の光が瞬き、どちらにせよ狂っている。
「ねえ、悪魔。君は勘違いしてるかもしれないけど、僕は別にゼノンのことが嫌いじゃないんだよ?」
「へェ、殺す算段を練ってるとは思えねェ言葉ダナ!」
「違う違う! 僕はただ許せないだけだよ。苦労して魔法も勉学も励んだ。元来喋りたくない僕だって、交渉術を勉強して派閥も形成した。学園に盤石な地位を築いたんだ。血の滲むような努力と苦労だったよ。なのに? え? ははっ、学園長に認められて? 早期入学? 盛大に目立ち? 下だと安心していた魔法だって抜かされ? 滑稽だよねぇ!! 許せない、許せないんだ。妬ましい。妬ましい。妬ましい……」
そこで男は、怒りに染まった表情を一瞬にして笑みへと変える。
「──なーんちゃってね。僕は生意気な弟に、ちょっとお灸をすえるだけ。そういうことだよ?」
「お前ェ……キショいナ」
「実体のない精神体の化け物に言われたくないね」
「まァ、それでもしばらくの間は従ってやるよ、ガノン」
「そりゃどーも」
男……ガノン・レスティナータは嗤う。
狂気に染まった瞳を胸に、彼は今日も闇魔法の修練に身をやつす。
その手で弟を殺すために。
ーーーーーーー
安易に力に頼らないで自力で修練するあたりゼノンくんの兄上。
兄上は悪魔を解放する前から普通に強いです。
だって、努力してきたから。まあ、その努力の軌跡を猛スピードで追い抜かしていく弟がいたら、そりゃ怖いですよね。
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