第31話 鑑定の真価

 リアの魔道具店を後にして、俺たちは市場へと向かった。

 王都の市場はそれをもう栄えていて、食材から魔道具の部品やら何でも揃っている。市場の特徴は、申請を出せば誰でも商品を売ることができることだ。裏を返せば、偽物を掴まされることも十二分にある。

 そこで出番なのがセレスの【鑑定】。

 物の情報を見ることができる【鑑定】はこういう場に強い。よく知りもしないものを売っている店から、とんでもない掘り出し物が見つかることもあるしな。

 

 スキルの保持者は極めて珍しい。

 能力もピンキリだが、【鑑定】ともなると大都市に一人か二人程度しかいない。そんな確率だ。

 産まれた時からスキルを持っている場合もある。というかそれが大多数だが、セレスのようにある日突然スキルに目覚めることがある。

 条件は知らないが。


「ここが市場か。流石に賑わっているな」

「時間帯も悪かった、かも。魔道具のエリアは、あんまり、人いないから、そこ行こ」

「そうだな」


 市場は人でごった返しだった。

 王都のメイン通りだけあって、行き交う人々には平民もいるし、商人もいるし、中には貴族らしき者もチラホラ見える。

 俺は目を細めて観察する。人多きところに、様々なヒントが眠っているものだ。特にこの市場は原作アニメでもトラブルが起こった場所だからな。警戒しておいて損はない。

 

 すると、ふと俺の腕が何者かに掴まれた。

 ……なんだ、パトリシアか。


「どうした?」

「逸れると、面倒。こうしておいた方が、楽」

「にしては随分と鷲掴みだがな……。まあ、良い。好きにしろ」

「やった」


 むふー、と得意げな表情を見せたパトリシア。

 自らの行動が最良のものと考えているらしい。


 普通こういう場面では手を掴むか、服の袖を掴んでキュンとするものだが──色気もクソもない腕、鷲掴み。

 まあ、パトリシアらしいといえばそうだし、元からそんな展開が起きる期待なんてしていない。理に適っているしそのままにしておこう。

 後ろ目にセレスとレイは見える。しっかり付いてきているようだ。


 そうしてパトリシアに腕を鷲掴みにされながら、俺たちは魔道具が売られているエリアにやってきた。

 十分に人はいるが、先程の渋滞状態に比べれば何倍もマシである。


「魔道具の露店、いっぱい」

「あぁ。あの中に本物が幾つあるのやら」

「魔力を放ってる、わけじゃないから、真偽を測るのがむずかしい」

「職人が見ればすぐに分かるらしいがな」


 作り手にしか分からないということだろう。

 魔道具の魔法はまた別物だからな。その点で言えば、俺たちは完全な素人だ。大人しくセレスの【鑑定】に従ったほうが良い。


「セレス出番だ。【鑑定】を頼む」

「良いですよ〜。どれを【鑑定】するんです?」

「そうだな……。見て回って気になった物を。セレス個人が気になった物もドンドン【鑑定】して欲しい」

「分かりました!」


 ビシッとポーズを決めるセレス。レイに冷ややかな目で見られているが、そんなことは気にも留めずに露店の魔道具を見始めた。


「俺たちも見ようか」

「うん」


 心なしかパトリシアもワクワクしている。

 こういう市場から掘り出し物を発掘するのは楽しい。誰にも注目されていなかった宝物を、自分が見つけたと堂々と喧伝できるからな。

 

「セレス、これを」

「ほいっ」


 俺が指差したのは黒のコートだった。

 それをジッと見つめるセレスは、首を横に振ってため息を吐いた。


「ふむふむ、ただのコートですね」

「そうか」

「な、なんだお前ら! これは【防御ガード】が付与されたコードだぞ! お前ら如きじゃ買えねぇ代物さ! 他の客の邪魔だ! 帰れ!」


 セレスの呟きに、店主は額に汗を浮かべつつ怒った。

 図星を突かれて怒るのは分かるが、もう少し隠す努力をしようか。


「行こうか」

「他のは、良いの?」

「あぁ、店主があの様子じゃ他も変わらんだろう」

「たしかに」


 パトリシアの問いにそう答える。

 ああした手口で売っている以上……まあ、あれが商売だというのは俺たちの方が邪魔だからな。こういう世界だ。騙されて買う方が悪い。

 騙されるのが嫌なら、しっかりした店で買えば良いのだから。安く済ませようとして市場に来る奴が、よく引っかかる。それはまさしく、騙される方が悪い。


 さて、次だ。

 


「これ、気になる」

「この石か? ……確かに何かを感じる。セレス、頼む」

「ほいほいさー」


 何かの紋様が入っている石だ。

 見かけ上はただの石だが、複雑に刻印された跡がどうも気になる。


「ふむ、おー! 山びこの石。この石に魔力を注ぐことで、直前に放った魔法を魔力無しで使えるみたいです。しかし使い切り!」

「……なるほど、擬似的な無陣魔法が可能というわけか。不意を突くには有効だな」

「これ、買う。ゼノン、良い……?」

「あぁ、見つけたのはパトリシアだからな」


 遠慮がちに訪ねてきたパトリシア。

 まあ、こういうモノは見つけたもの勝ちだ。俺も欲しかったが、仕方ない。


 それに……嬉しそうに石を持って笑うパトリシアを見れただけで得というものだ。




「あ! ゼノン様! なんか見つけましたぁ!」

「セレス……それは……」


 セレスが指を指した金色の指輪。

 

 それは──原作ゼノンくんが入手した、悪魔を封じている指輪だった。

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