第26話 ゼノンvsアノイ

 決闘は、学園の施設の一つである競技場で行われる。

 観客席も無数にあり、試合会場はさながらコロシアムのようだ。会場と観客席の間には、校長が作った結界魔法が張られており、流れ弾から防ぐ機能がある。

 

 新入生の決闘はこれが始めてのようで、学年問わず多くの生徒が集まった。娯楽として戦いを見る文化があるのがこの世界だ。観客の表情は、これから始まる戦いにワクワクしている様子だった。

 まあ、期待の恥じぬよう、精一杯応えようか。

 それに相手は王立学園をしっかり受験して受かったエリート。声音や言い草から、自分の実力には自信がありそうだし、決して油断して良い話じゃない。

 

 俺は校長から認められた早期入学生だが、裏を返せば他よりも生きた経験が浅いということだ。足元をすくわれることになるのは嫌だからな。



「ゼノン・レスティナータ。俺はてめぇのことをいけ好かないガキだと思ってた。早期入学制度なんてコネかズルだと思ってたし。でも、この一ヶ月、てめぇはしっかり授業を受けていたし、他人をバカにする様子もなかった。初日に言った言葉は取り消す。突っかかって悪かった」


 アノイはそう言って真摯に頭を下げた。

 俺はそのことに少なからず驚いた。

 今の貴族は頑固だ。自分の発言を撤回し、謝るなんてことは到底するわけもない。間違いを認めることの難しさ。平民だろうが貴族だろうが、その難しさは変わらないが、貴族の場合はとりわけ自身のメンツを守るために認めない奴が多い。政争じゃあ間違っていないのかもしれないが、人としては間違っている。

 偏見は持ち合わせていないが、初日の様子からアノイもその手の類だと睨んでいた。


 しかし蓋を開けてみれば、彼は俺に対して謝罪の言葉を掛けるだけでなく、頭までも下げた。

 ……表情的に俺を睨んでるのは間違ってないし、納得しきれてない部分もあるのだろう。逆に納得していないのに自分の非を認めることができるのも立派だが。


「俺は別に気にしていない。早期入学なんて制度が目を付けられるのは当然のことだ。説明が行き届いていない状況で、コネだと思われるのも無理はない。それに……突っかかった、と言ったが、誰もが気になる状況下の中、矢面に立って意見を呈したのは、純粋に称賛に値する。更には、自身のメンツよりも俺への謝罪を優先した。その謝罪を受け入れないわけがないだろう」

「……そーかよ」


 アノイはそっぽを向きながら頬をカリカリと人差し指で掻いた。どことなく頬が赤い気がする。

 だがアノイはゴホン、と咳払いをするとビシッと俺に指を指して言い放つ。


「──でも! お前の実力を認めたわけじゃない!! この決闘で、それを見させてもらう!!!」

「あぁ、胸を借りる心積もりで行こう」

「嘘をつくな嘘を。てめぇ、少なくとも自分の実力については疑わない質だろ。下に見ているわけじゃあないと思うが、負けるつもりも手加減するつもりもない。だろ?」

「……そうだな。間違っていた。──全力で叩き潰す。これで良いか?」

「っはは! そっちの方がてめぇらしいわ!!」


 互いにニヤリと笑い合い──戦いのゴングが鳴る。


「タァッ!!!」


 最初に仕掛けたのはアノイだった。

 身体強化魔法を使ったようで、猛烈な速度のまま拳を突き出してくる。ユノのように拳に魔法を付与することはできないだろうが、それでも当たれば無事では済まない。  

 幾ら鍛えているとはいえ、魔法が無ければ脆弱だ。


 まずは距離を取って遠距離戦に──やめた。

 肉弾戦を望んでいるなら応えよう。


「【身体強化】」


 俺も身体強化魔法を使う。

 普段とは段違いの速度が出るために、この魔法は慣れていないと自身の力で破滅する。その点、俺はレイとの特訓の時に身体強化を使用していたゆえに問題はない。

 だが格闘は畑違いだ。あくまで俺は剣術と魔法しか習っていない。

 幾ら俺のほうが強化倍率が高かろうが、技術で負ければ意味が無い。


 だから俺は瞳をいつも以上に魔力で強化することにより、素早い相手の動きを見るようにする。


「ハァッ!!!」


 アノイの右拳が俺の顔面を狙う。

 愚直……とも言い切れない。躱されることを前提に、次点の動きがすでに組み上がっているからだ。

 

 俺は右拳を躱さずに、アノイの右手を肘で押し上げることによって、攻撃を逸らした。実にヒヤヒヤする。少しでもタイミングが遅ければ拳は俺の顔面に直撃するからな。

 

「ちぃっ!」


 攻撃を逸らされバランスの崩れたアノイは、建て直しのため距離を取る……が、距離ができたのならば俺の独壇場。


「【雷撃】」


 ──イカヅチが降った。


 魔法陣は強く頭の中でイメージすることで、半自動的に描かれていく。そのシステム的に、俺は別に自身の体の目の前で無くても良いのでは? と推論した。

 その結果練習することで生まれたのが、相手の頭上に魔法陣を発生させて雷を降らす【雷撃】ver2。

 このシステムの利点は、存外魔法の発動に気づかれないことだ。相手の一挙手一投足を見るが余り、頭上というのは注意が散漫になりやすい。


 実力があるからこそ生まれる隙。

 魔法とは解釈の仕方で、ガラリと変わる。自分の勝手なイメージや押し付けは、解釈を狭める原因になってしまうのだ。



「──無傷、か」


 土埃が晴れ、姿を現したアノイは無傷だった。

 そして体の周りに薄い膜のようなものが張り巡らされている。


「高度な結界魔法。ロングレン家の秘匿魔法か」

「ああも啖呵切っておいて簡単に負けるわけにはいかねぇ。使えるもんは使うべきだろ?」

「違いない。俺もかなり、楽しくなってきた」

「奇遇だな。俺もだよ」


 ──秘匿魔法。

 一族のみにしか術理が知らされない魔法だ。

 何か持っていると思ったが、俺の【雷撃】を防ぎ切れるほどの結界魔法ともなればかなり希少だ。

 

 ──入学首席、アノイ・ロングレン。

 すぐに強者と決闘ができたのは、俺にとっても嬉しい限りだ。

 血が滾る。頭に熱が回る。

 


「俺は負けない」

「──破ってみせろよ、俺の結界」


 戦いは加速していく。




ーーーーー

ゼノンより格好良いかもしれないアノイくんとは。

というか、アノイくんの立ち位置がヒロインすぎて泣けるんですけど……。

あ、あの、BLは100%ないですからね……?(期待してる人が結構いる現実)


あ、そういえばアノイくんは首席です。

かなり強いです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る