第25話 決闘解禁
冷静に考えてだ。
俺は慢心していた。調子に乗っていたと思う。
ゼノンに憑依してから過ごす日々は、楽しさに満ち溢れていた。魔法に狂い、修練に精を出す日々。その過程で、世界最強の魔術師と戦えたことは得難い経験になった。
更には王立学園に早期入学。原作主人公のユノや、パトリシアという気の合う友人ができ、トントン拍子に上手く行っていた。
表面上は冷静を取り繕い、ゼノン・レスティナータという皮を被っていたものの、心の奥底で慢心していた事実は変わらない。
これでは原作主人公くんのことを笑えない程にイタい。
良くない。これは非常に良くない。
カルバン教授のお陰でそれに気づくことができた。
俺が作ったポーションというナニカは、余りにも純度が濃かった。このまま使用すれば劇毒になりかねない程に。
希釈すれば良いと思うかもしれないが、希釈代と希釈ができる専門職に委託する代金を考えれば、圧倒的に普通に低級ポーションを作ったほうが安く量産できる。
俺は端から実力を誇示することに固執して、課題の意味を明白にすることができていなかった。
何が裏を読め、ユノ、だ。
俺が言えたことじゃなかった。
「だがまあ、切り替えねばな」
いつまでもクヨクヨしていられない。
失敗を経験にシフトし、フィードバックする。俺のスタンスは変わらないが、慢心はしない。
慢心の先にあるのは破滅のみ。イタい破滅なんて俺が一番嫌な終わり方だしな。
「カルバン教授には感謝しなければ」
気づかせてくれた恩師だ。まあ、そんなつもりはないかもしれないけど。
少なくともこのまま進んでいれば、いつか痛い目に遭うのは間違いなかった。しっぺ返しは勘弁願いたい。
だが、慢心はしないが、学園生活は楽しませてもらう。常に気を張っているのもそれこそ一瞬の油断を生み出すことになる。俺と友人になってくれたユノとパトリシアのためにも、学園生活を充実させたいという気概がある。
まあ、敵には容赦しないがな。
──さて、今日も行くとしよう。
「ん? もう行くの?」
「あぁ、今日は面倒になる予感がしてな。早いところ片をつけたいんだ」
「面倒になる予感……? ……あぁ! 今日で入学から一ヶ月か! 決闘解禁だもんね。ゼノンなら尚更挑まれるだろうから大変だ」
「兄上はどうだったんだ?」
「んー、まあ、レスティナータ家の長兄だからね。それ相応の人たちに挑まれたよ」
兄上は半ば苦笑いで言う。
決闘は単位以外にも得るものがある。
それは箔だ。
大貴族の長兄に勝つ。それは思うよりも影響力のあることなのだ。強さだけが指標ではないが、負けは負けだ。
特に学生時代ともなれば、噂はあっという間に広がる。この年齢ならば、武勇による格付けがあってもおかしくない。
つまりは「あぁ、あそこの家の人? すごいよね、領地とか発展してて。でも学生時代、あの家に負けたんでしょ? いざ領地が攻められた時に腕が立たないと危ないんじゃない?(笑)」みたいな。
好き勝手な偏見が付き纏うのだ。
だから、腕に自信がない貴族は決闘を避ける。
逃げている、などと言われるだろうが、それでも負けるよりはマシだからな。
「それで、全勝したと。兄上の噂は良く聞く。謂わば、負け無しの天才。未だ敗北を知らない白の勇者、とかな」
少しニヤリとしながら言うと、兄上は微かに頬を赤らめて苦言を呈した。
「ちょ、ちょっと、やめてよ……。僕は、その二つ名許したつもりはないんだ!」
「それだけ人気があるのだろう? 無いよりは良い」
「まあ、そうだけど……。ゼノンもきっとこの恥ずかしさが分かるようになると思うよ」
うん、分かる。
だって原作ゼノンくんの二つ名『闇の貴公子』だし。
イタすぎるだろ。
ちなみに主人公くんは『光の聖騎士』だったりする。
どっちもどっちすぎて吐く。
「どれだけ挑まれるかは分からないが、来るならば返り討ちにするだけだ」
「実際そうするしかないよね……頑張ってね」
「あぁ、ありがとう」
全力を持って、油断なく対応する。
その結果負けてしまっても、それは単に俺の実力不足だ。受け入れて強くなるしかない。
だがノヴァに負けてから俺は誓った。もう負けないと。
その誓いは……破りたくない。
「────決闘だ!! ゼノン・レスティナータ!!」
「受けて立とう。アノイ・ロングレン」
「え、良いの……? マジで……? というか俺の名前知ってんの……? へー……」
めっちゃ嬉しそうな顔だな。
ーーーーー
次回は、茶髪の彼ことアノイくんとの決闘です。
正真正銘の悪役モブにするつもりだったのに、作者が気に入ったせいで何か知らないうちにメインに入りそうな雰囲気を醸し出している。
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