第24話 慢心、ゆえのイタさ
意外なことに、兄上との生活は楽だった。
何せ基本的にお互い干渉しない。兄上の方は干渉したそうにしているが、俺が基本寡黙であることに気を遣っているのか、必要事項以外のことで話し掛けることはなかった。
そうまでして貰っていると申し訳ないと、俺からたまに話を振るのだが、それはもう嬉しそうにするのだ。
……基本的に善人キャラであった兄上だが、ここまで俺に注意を向けていただろうか。これも原作との差異の1つだ。
原作との差異で言えば──この銀髪の少女、パトリシア・エルミネードも存在自体が謎に包まれている。
こうもキャラが濃く強ければネームドキャラであってもおかしくないのに、原作アニメでも公式ガイドブックでもパトリシアの名前は一文字も出てこない。
「どうか、した?」
「いや、何でもない」
「どしたん、話、聞こか?」
「何だそれは」
「巷で、流行ってる、って」
「やめておけ」
「分かった」
相変わらず無表情を貫きながら不思議な言動を繰り返すパトリシアに付き合いつつ、俺は思案を巡らせる。
……原作アニメと似た異世界だ、と考えたくとも、どうしても頭に過る原作知識。普通は役に立つはずの憑依者特有の原作知識が、逆に行動の阻害になってるとは皮肉だな。
「何の話してんだ?」
「ゼノンを、ナンパ、してた」
「マジで!? 俺もしたい!!」
「でも、気のない、返事。つまらない」
俺とパトリシアの会話にユノが合流して、一際周りが騒がしくなる。
基本的にだが、俺たちはこの三人で行動している。
初日に目立ち過ぎたのもあるが、あっさりと俺たちが早期入学生であることがバレ(というかユノとパトリシアは自分からバラした)、俺たちは遠巻きから眺められている状況にある。
別段不満はないが、それは俺に限った話だ。
友人を作るチャンスをふいにしたユノとパトリシアはまた違う。俺のために未来を捨てるようなものだ。
だが二人揃って「友人を馬鹿にする人たちと友人になりたいと思う?」というゼノンフェイスでなければ照れる言葉を頂いた。
それから二週間。
俺たちは授業を受けつつ、仲を深めている。
入学してから一ヶ月は、オリエンテーションや体験授業を通して、何を学びたいかを決める期間だ。
本授業でないため単位は与えられず、大学で言う履修登録期間のようなものだな。
「聞いている、が、ナンパされたつもりはないな」
「えー、なんだよ面白そうだったのになぁ」
「俺をナンパするような物好きがいるとは思えないがな」
「いるだろ!! ここに!!」
「ナンパの意味を調べてから出直して来い」
わざとらしくガクッと項垂れるユノに、思わず口角が上がる。
俺がツッコミだとすればユノはボケ。そしてパトリシア……もボケ。ツッコミの労力半端ないな!!
まあ、上手く回っている。学生気分というのも悪くはない?
「ゼノン、そろそろ魔法薬学の授業、始まるよ?」
「あぁ、もうそんな時間か。行くぞ、ユノ、パトリシア」
「「はーい」」
☆☆☆
魔法薬学の授業にて。
汗をハンカチで拭きながら登場した中年男性が壇上に上がった。
「皆さん、魔法薬学の体験授業にご参加いただきありがとうございます。えー、私は魔法薬学の教授を務めているカルバン・ネルミと申します。まあ、そんな挨拶は結構。早速体験授業と行きましょう。まずは皆さん、確認事項です。皆さんにはそれぞれ一人一人に台が用意されていると思います」
視線を移すと、こじんまりとした作業台のような物に、ガラス瓶と三種類の草が置いてあった。
「その上にはポーションの材料が置いてあります。今から皆さんには、下級ポーションを作成していただきます。なーに、大丈夫です。魔力さえあれば子どもでも簡単に作成できます。台には作り方のメモがあります。さっ! 早速作ってみましょう! 落ち着いてやれば大丈夫! 作成したら私に見せてください。講評と簡単なアドバイスを授けます。この体験授業は、魔法薬学の楽しさをお伝えするためのものです。気負わずにゆっくりとやってみてください」
そう締め括ったカルバン教授は、ニコニコと人の良い笑みを浮かべて俺たちに作成を促した。
「なあ、なんか良い人っぽいな!」
ユノがワクワクした様子で呟く。
しかし、俺とパトリシアは厳しい視線でカルバン教授を見ていた。
「……タヌキ爺だな」
「え、なに? どゆこと?」
「あのギラギラした目を見てみろ。表情で上手く取り繕っているつもりだが、魔力は誤魔化せない。あれは才能の原石を早い内に発掘する魂胆だな」
魔法薬学には幾つか種類がある。
それぞれ教授は別の者が請け負うが、早いところ見つけて良い印象を与え、自陣に取り込もうという魂胆なのだろう。
優秀な生徒を持てば、それだけ教師の株が上がる。
内部序列といったところか。
更にパトリシアが補足する。
「たかが下級ポーション。されど下級ポーション。作り手の、才能は、下級ポーションの出来、一つで分かる。確かに、作るのは簡単。だからこそ、分かりやすい」
「こういう教師が全員、というわけではないが、裏を読み取るセンスは付けておくべきだろう。ユノ」
「へい……」
「お前は人が良い。だが、疑うことを覚えた方が道を間違わない」
ユノはしっかり頷いた。
バツの悪そうな顔は、自分でもきっと自覚はあったのだろう。少し強めに言ったが、そうでもないといつか騙される。俺は友人を騙した奴を許しておけるようなタマじゃない。
……だから、できれば俺が手を出すこと無く世渡りを覚えて欲しいだけだ。
「さて、さっさと作成を終えて魔術の修練に励むとしよう」
俺は徐ろに瓶に三種類の草を詰め込む。
それぞれ
特に癒草と魔力草は癖が強く、これだけでは到底人の飲めるモノができあがらない。そこで味草を混ぜることによって旨味を抽出するのだ。こうして出来上がるのがポーション。
だがそれだけではつまらない。
やったことはないが、仕組みが同じならばきっと可能なはず。
俺は瓶に詰め込んだ草に魔法を掛ける。
「【分解】【抽出】【混合】」
草をバラバラにし、それぞれの成分を抽出。
液体になったそれを混ぜ合わせる。
「【構築】」
俺は瓶と濾し布を作り、混ぜ合わせた液体を濾す。
もっと拘ればやりようはあるだろうが、簡易的なものならこの程度だろう。
「完成」
俺が作ったポーションは、鮮やかな緑色をしていた。
絞り粕になるまで草の成分を抽出したからな。効果はバッチリだろうな。
「提出してくる」
「もうできたのか!? はっや」
「すっごい、濃いね」
なんか聞いちゃいけないセリフを聞いた気がするけど無視しておこうか。
友人たちの称賛を受けつつ、俺はカルバン教授の元に足を運ぶ。
「ん? もうできたのかね? 見せてみなさい」
俺は無言でポーションを手渡す。
カルバン教授は受け取ると同時にメガネを懐から取り出して掛け、厳しい表情をした。
「君、これを数分で作ったのかね?」
「あぁ。別に魔法禁止という文言はなかったはずだ。【
「ふむ……。ひたすらに純度の高いポーションだ。うむ、帰りなさい。君に体験授業は必要なさそうだ」
カルバン教授は講評の必要無し、と俺に帰るよう水を向けた。……自惚れていたわけではないが、てっきり引き留められると思っていた。
「どうしたのかね?」
その動揺が表に出てしまっていたのか、カルバン教授は怪訝そうに眉を顰める。
「いや、何でもない」
「君の思っていることを言おうか。……私の研究室に君を引き込むには、私の力量が足りない。私が求めているのは磨き切った才能ではなく、まだ磨かれていない原石だ。君は余りにも眩しすぎる。その光は、私の研究生にどんな影響を齎すか計り知れないからね」
……見抜かれていた。
それと同時に、己を恥じた。どう考えても調子に乗ったイタい発言だった。己の浅慮さに羞恥が湧き上がってくる。
と、同時に──
「あと、このポーションは売り物にならない。純度が高すぎるが故に、味も効能も非常に濃い。下手な怪我では劇毒だよ。次は普通のポーションを作って欲しいね」
……俺はもう慢心しない。
(´・ω・`)。
ーーーーー
ゼノンが気を引き締める回でした。
(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)(´・ω・`)
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