第23話 寮の同室
(´・ω・`)
↑こんな顔になった茶髪の彼は、すごすごと自分の席に着いた。
何か悪いことをしてしまったような気がしてならないが、事前に調べたら出てくる情報だから勘弁して欲しい。
決闘禁止が明けて、正式な手続きさえ踏んでくれればこちらとしても受けやすい。単位だけではなく、修行的な意味でも色んな人と戦った方が経験になるだろうからな。
そういう意味合いも込めて茶髪の彼を見ると、彼は俺を見ずにしょぼーんとした様子で俯いていた。
あの様子だと学外や人気のないところで襲われる、などといったことは心配せずに良さそうだな。あくまで俺の実力を疑った上で、証明を必要としているのだろう。
昨今の貴族にしては清々しくて良いな。
「……では、気を取り直してオリエンテーションを始めます」
☆☆☆
オリエンテーションで、施設の見学や説明。学園の仕組みなどをたっぷり二時間ほど聞いて、その日は解散の運びになった。
初日にやることなんてこんなものだな。前世の高校を思い出す。最も、進学校でもなかったから、ここまで手厚いオリエンテーションなんて無かったけど。
「今日から寮生活か。同室は一体誰なんだ?」
ここでまたユノと同室だったら面白いが、寮は全学年共通で、誰が同室になるか分からない。
同学年の者と同室になることもあれば、一つ上の者と同室になることもある。誰が同室になるかは、入寮の日にようやく分かる。
俺はそんなことを考えながら、学園寮に辿り着く。
多くの生徒を抱えているだけあって寮はデカイ。それに、まるで高級ホテルのような外観だ。
小規模の城、と言っても差し支えはない。
更に内装はこれまた素晴らしい。煌びやかな、というわけでもなく、落ち着きのあるシックな感じで、貴族感が全面に出ていない。
豪華絢爛が好きな貴族にとっては物足りないかもしれないが、少なくとも俺にとってはベストと言える。
俺は内装を見渡しながら、寮員がいるカウンターへ行く。
「入寮の手続きを頼む」
「かしこまりました。ゼノン・レスティナータ様ですね。こちらの用紙に記述をお願いします」
「あぁ」
パパっとサインと必要情報を記入する。
「ありがとうございます。オリエンテーションにて、寮に関する説明はされていると思いますので、説明は省かせていただきます。こちらが寮室の鍵です。手前の昇降機で5階まで上がっていただき、右手にありますのがゼノン様のお部屋でございます」
「感謝する。ところで同室の者についてだが……」
「はい、現在お部屋にいると思いますので、行っていただければ自ずと分かるかと。ゼノン様も良くお知りの方ですよ」
俺が知っている……? やはりユノか?
またノヴァの計らいか分からないが、正直気の知れた者が同室だと助かる。俺は饒舌ではないし、別に無理に話す必要もないがお通夜みたいな雰囲気は困る。
その点気心知れた者だと安心できる。
俺は少し安心して、昇降機……簡単に言えば魔力で動くエレベーターに乗る。
指定階層を押し、魔道具になっている手すりに魔力を込めれば、自動で動く。かなりハイテクで便利な品だが、こういう発明品があると、俺以外の憑依者または転生者を疑いたくなる。
アニメの仕様なのかもしれないが、些か都合が良すぎる。
部屋前に辿り着いた俺は、一応ノックをする。
親しき仲にも礼儀ありだな。着替え中だった場合が一番気まずいし。別に俺もユノも気にしないんだろうが。
「はーい」
「……ん?」
どこか聞き覚えはあるが、返事の声はユノではなかった。優しく包み込むような声音だ。俺の知ってる者でこんな声をしてるのは──いや、まさか。
俺は微かに焦燥を覚えつつ、扉を開けた。
「ゼノン、久しぶりだね」
「……兄上」
そこにいたのはガノン・レスティナータ。
つまりは俺の兄だった。
知り合いって兄上のことか!?
……これはマズいな。ノヴァのいらな過ぎるお節介だ。
憑依当日の件から分かるように、俺と兄上の仲は良くない。真実を言えば俺……というか原作ゼノンくんが劣等感から一方的に嫌い避けてるだけだが、それは今も変わらない状況にある。
憑依当日は焦っていて、疑われる訳にはいかなかったから原作通りの冷たい対応にしたが、今となってはその必要もない。
だからといって、あの冷たいゼノンしか知らない兄上が、いきなり変わった俺を見てどう思うのだろうか。
……いや、口調は変わっていないが言葉の節々からバレる。特に面倒な事態だ。
「どうして兄上が」
一先ず動揺を抑えながら事態の把握に移行する。
兄上はどこか嬉しげな様子で説明してくれた。
「同室がね、2個上の先輩だったんだけど卒業したんだ。それで、空きが出て。校長が直々に僕に頼んだんだ。ゼノンと同室になってくれないか、って。まさかあの校長が頼み事なんて驚いたよ。ゼノンもすごいね。校長に認められて早期入学なんて」
「そう……でしたか。校長が」
やはりあのお節介ロリババアだったか。
幾ら何でも目を掛けすぎだ。これでは贔屓というのも否定ができない。ノヴァにとっては俺の環境を整えて、魔法の修練を積ませたいと思ってるのだろうが、お節介が過ぎる。
「ゼノンの話は聞いてたよ。その……随分、前とは変わったんだってね」
「心の余裕は生まれたとは思いますが」
「うん、僕は今のゼノンの方が好きだな」
「そうですか」
「それと、学園では敬語はいらないよ。前から兄弟なんだから対等に話したい、って思ってたんだ! 家では貴族のしがらみがあるからそうもいかないけど……ここだけなら。駄目かな?」
ニコニコ人の良い笑みを浮かべて言う兄上に、俺の罪悪感メーターは音を立てて上がっていく。
善人ではない俺にとって、あまりに兄上は眩しすぎる。価値観や基準点は分かり合えないだろうが、兄上がその気なら俺も取り繕う必要はない。
「分かった、兄上。これで良いか?」
「うん。ありがとう」
「礼を言うのはこちらの方だ。兄上に対しては、随分険悪な態度を取ってしまった」
「これからさ。兄としては不甲斐ないかもしれないけど、何でも聞いてよ」
「ありがとう」
この世界に来てから初めて面と向かって礼を伝えた気がする。兄上には迷惑しか掛けていない。弟に険悪にされるのは兄にとって辛い。
「うん、楽しみだ。……のが」
「何か言ったか?」
「一緒に過ごすのが楽しみだな、ってね」
「そうか」
やっぱりこの世界の住民は聞き返したら答えてくれるのか……。住民性ならぬ世界性か? まあ、どうでも良いか。
「あ、荷解き手伝うよ! あとは色々──」
こうして俺の学園生活初日が終わった。
☆☆☆
「楽しみだな。全部壊すの」
ーーーーーーー
茶髪くんの(´・ω・`)の顔文字については、応援コメントから採用しました笑
コメ返、できていない状況下ですがレビュー含め全て目を通しておりますので、楽しみに待っています!
【余談】
皆様のお陰で週間総合1位を達成しました〜!
ウヒョォォオオオオオオ!!!(ユノボイス)
ありがとうございます!!!
カクヨムを始めた時からの夢だったので嬉しいです〜!
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