第22話 決闘システム

「あっぶぶねぇ!!! 遅刻寸前!!!!」


 そう言って、見に覚えのある金髪碧眼の少年……ユノが汗だくで駆け込んできた。

 教室中の生徒たちが注目する中、俺の姿を見たユノは途端に瞳を輝かせて、満面の笑みで向かってきた。心なしかぶんぶん振ってる尻尾が幻視できた気がする。


「よっ、ゼノン! 同じクラスで良かったぜ〜〜!!」

「あぁ。久しぶりの再会を楽しむのも良いが、そろそろ始業のベルが鳴る。座れ」

「お、そうだな。またな!」


 ユノはニコニコ顔のまま自分の席に着いた。

 周りからは「あいつ何者だ……?」とざわついた空気を感じたが、当のユノに意に介した様子はなく、頬杖を突いて欠伸をしながら待っている。

 平民だ、何だのこれからも言われるような世界だが、ユノのような豪胆さがあればあまり心配する必要もないかもしれないな。

 

 俺も席に着いて教師を待つ。

 原作通りならゼロが教師になるが、果たして。まずもって、ここまで原作と違う点が多ければ、同じになることはほぼ無い。

 だが、俺は腹の立つことに校長から目を掛けられている。教師の采配も恐らくノヴァがすることだろう。


 ──と、いうことは、だ。 

 

 俺は扉から入ってきた、パトリシアよりは少し短い銀髪が見えた時、やはりなと確信した。

 

「皆さん、おはようございます。これから貴方たちの担任を務めることになりました、ゼロ・ミストです。よろしくお願いします」


 どうやらゼロが担任ということは原作と変わりないようだ。今まで原作と違うことが起きていた手前、逆に原作通りのことが起きるのは些か不安だが……。

 まあ、ゼロが担任ならば悪いことは起きないだろ。


 ちなみにだが、ほとんどの男子生徒はゼロの美貌にやられて惚けた視線を彼女に送っている。

 無理はない。

 ゼロの非現実染みた透明感のある美しさ。そして、何処となく溢れる色香は、15歳の少年にとって刺激が強い。

 ゼロに性癖狂わされる人とかいそう。人外フェチとか。

 

「まずは皆さん、入学おめでとうございます。王立学園は、貴方方を歓迎いたします。──ですが、例年、入学で慢心し、努力を怠る生徒がいます。当校では、そのような生徒に対し、一切の援助をいたしません」


 厳しい目で言い切ったゼロ。

 誰かがゴクリとつばを飲んだ音が聞こえる。場は緊迫した空気で包まれていた。


「大なり小なり、王立学園に入学した方は自分の能力に自信を持っています。それは結構。自信を持つことは強さに繋がります。ですが、その自信にあぐらをかいて慢心し、努力を怠る。自分は強いのだと努力する人間を嘲笑う。そんな方は、必ず努力する方に抜かされます。下に見ていた人が、いつの間にか自分よりも上にいる。そのようなことは有り触れています。王立学園の教師一同、努力する生徒には、できる限りの援助をしましょう」


 そこで一拍切り、ゼロは魔力を微かに解放した。


「「「──ッ!?!?」」」


 ──威圧感、圧迫感。

 心臓がキュッと引き締められるような感覚。

 それは本能的に勝てないと思わされるような。生物としての格の違いを見せつけられるような。そんな感覚だ。


 ──面白い。

 俺は震えんぞ。諦めもしない。

 教師でさえも、俺にとっては超えるべき存在だ。

 今日は敵わないかもしれない。だが明日は違う。 

 今日積んだ努力だけ、明日に繋がる。


 俺はニヤリと笑う。額には汗が流れていたが、気にも留めずに、ゼロの顔を真正面から見て笑った。

 そんな俺に気づいたゼロが、微かに口元を緩めた。

 同刻、同じように笑った者が二人ほどこの場にいたことに、俺は気づかなかった。



 ──そして最後にゼロは締めた。



「──努力を怠った者に、王立学園の地を踏ませることはないと思いなさい。……以上です」


 フッ、と威圧感が消えた。

 周りを見ると、息も絶え絶えの様子だ。

 俺だってしっかり気を張っていないと危なかった。表面上は余裕のように見せているが、余りにも暴力的な魔力の圧に怯えてしまうところだった。  

 それだけは許されない。


「おや? 例年、気絶する者が数人いるのですが……。将来有望のようですね。……さて、切り替えてください。オリエンテーションを始めます」


(できるか!!!)


 と言ったような表情を大体が浮かべていた。

 だろうな。だが、良いキツケになっただろう。浮ついた空気は鳴りを潜め、誰もがしっかりと話を聞くフェーズに移っている。

 これがもしも暴力的な事柄だけであったら、こうはいかないだろう。きっと怯えて黙るだけになっていたはずだ。

 ゼロは最後の最後まで魔力の解放を留まっていた。  

 まずは言葉で語りかけ、場の空気を支配。それから、全員に焦りを授けたところで魔力を解放し、実力で言葉の説得力を高めた。

 

 王立学園というエリート校に入学したことによって生じた余裕と慢心を、たった数分で消し去った。

 その教師としての手腕には素直に脱帽する。



「さて、ではオリエンテーションを……どうしました?」


 ゼロが話し始めようとした瞬間、一人の生徒が手を上げた。俺が話していたら何処かに言ってしまった、あの茶髪の男子生徒だ。

 彼はあくまで冷静にゼロに問いかける。俺をチラリと睨んでから。……器用だな。


「早期入学制度について、ご説明を求めます」


 茶髪の彼にとっては、随分勇気あるタイミングでの質問だったのだろう。微かに緊張を浮かべて問うた。

 しかしゼロは、事もなさげに言う。


「あぁ、早期入学制度は校長が今年から取り入れた制度で、皆さんより三歳下ですが、現時点での実力は貴方方より遥かに上です。年下に学ぶことは屈辱かもしれませんが、歳は関係なく彼らは格上です。それを念頭に置くようにしてください」


 ──なんでまたヘイト溜めるような言い方をするんだか。……いや、ある種試練か。このやっかみを乗り越えろと。

 まあ、当然こんな言い方をすれば、茶髪の彼は納得できないだろう。


「な、納得できません! 俺たちは厳しい試験をくぐり抜けて合格しました! だけど、早期入学制度は違う!! 試験もなしに推薦だけで入学してるじゃないですか! そんなのおかしいですよ!!」

「王立学園は平等を謳っていますが、それはあくまでも身分的な事柄です。どこの世界でも実力主義ですよ。歳下だからと素直に認められない時点で、それが貴方と彼らの実力の差、ということでしょう」


「──それは違うな」


 俺は口を挟んだ。教室中の視線が再び俺に集まる。


「どういうことでしょうか?」


 ゼロが何処となく楽しそうに問いかけてくる。

 ……そういうことか。


「そこの彼の言うことも正しいということだ。この状況を見るに、早期入学制度という情報だけが前段階として伝わっているのだろう。つまりは、早期入学生の実力が正しく伝わっていない。そんな状況で、試験を合格した者が意見を唱えるのもまた正しい。

 ──あるのだろう? 実力を評価される場が」


「あります」


 よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりの笑みに、俺は誘導されたな、とため息を吐いた。

 こういう流れにするためにわざと、俺が引っ掛かるような言葉を使ったに違いない。食えない龍だな。


「王立学園には『決闘』というシステムがあります。週に一度、自分の実力を試すべく学園の施設で戦うことができるのです。決闘ですから、これには双方の同意が必要になります」

「で、というからには、負けた者に対して何らかのペナルティがあるのだろう?」

「はい。敗者は勝者に対して週で得たを渡さなければなりません」


 ──やはりあったか。決闘システム。

 原作アニメでも何度も登場した。それが決闘だ。

 前に俺は王立学園は単位を集めることで卒業できる、と話した。単位は、授業に出席したり、何らかのクエストをクリアすることで貰うことができる。

 だがもう一つ、決闘に勝利した時に相手の単位を奪うことができるシステムがある。

 勿論週に一度だからそれだけで卒業は不可能だが、かなりの実入りにはなる。


 ちなみに原作ではゼノンくんが毎週主人公くんに挑んで負けていた。主人公くんにとっては良いカモだっただろうな。


 つまり、単位を争い卒業を目指す。

 それが王立学園のシステムだ。


 ──茶髪の彼はその話を聞いて俺に向き合う。

 そしてビシッと指を指して言い放つ。


「──決闘だ! ゼノン・レスティナータ!!」

「断る」


「なん……だと……?」

「入学してから一ヶ月は決闘が禁止されているからな」

「あっ、そう……」


 ……なんかごめんな。

 

 


ーーーーーー

個人的に書いていて好きな回かもしれません。

モブに全力を注ぐ作者。茶髪の彼は浅慮で好き。

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