第21話 パトリシア・エルミネード
「ナンパじゃないなら、なに?」
「お前の強さに興味を惹かれた。どこでその強さを手に入れた? 師匠はいるのか? 誰だ?」
──ん? デジャヴ。
おっとマズい、これではノヴァと一緒だ。
……あの時も俺はノヴァの勢いに引いた。俺がその立場になってしまったことは痛恨の極みと言える。一緒にされるのだけは勘弁願いたいし。
だから俺はどうフォローしようかと思案を巡らせた……が。
しかし、オッドアイの彼女はただ首を傾げて疑問を発するのみだった。別に俺の言葉を気にしている様子はない。
「なぜ、私が強いと思ったの?」
「魔力の質が違う。この場にいる誰よりもお前は魔力操作に長けている」
「それは君を抜いて、でしょ?」
「ほう……分かるのか」
驚いた。
隠しているつもりはないが、そもそも人が魔力操作に長けているかどうかも、分かる人にしか分からない。
俺はそれを魔力で瞳を強化することでなし得ているが、ゼロの言っていた通りなら、その技術を体得している人は少ないと言える。
つまり、彼女はその領域に達しているか、もしくは別の何らかの技能を持っているということだ。
……まあ、ユノみたいに見ただけでやってのけた天才がいるから一概には言えないけど。
ともかく、特殊な訓練を積んだ俺を除けば、彼女の魔力操作は随一と言っても過言ではない。というか、総合的な実力は分からないが、魔力操作に限っては俺より上の可能性もあるな。
「君も、魔力が見えるんだね。びっくり」
「全然驚いたような顔には見えないがな。しかし……お前のその魔力の性質は何だ? 見たことがない」
間近で見てその異常性が分かった。
多くの者の魔力というのは、ドロリとした粘質を持っている。魔力があるだけで存在感が明白なのだ。
ノヴァのように神業染みた技術で、魔力の気配を朧のように希薄にする……という例外も存在するが、俺含め魔力は粘質を持ったエネルギーだ。
だが、眼の前の彼女はそれとは違う。
魔力の気配が希薄、というわけでもない。確かにそこに魔力はある。しっかりと感じることができる。
しかし、流水のようにサラリとしていて、あるはずの粘質が感じられなかった。
だから何だよ、と思うかもしれない。
これはある種俺の推論だが、恐らく──魔力を流してから発動までが恐ろしく速い……のだと思う。
万民、魔術師は魔力を動かしている。けれど、粘質のせいで魔力を注ぐ速度は遅い。
それがもしも、流水のようにサラサラで滑らかであったら?
速い。間違いなく魔法の発動までが速い。
その推論含め、俺は彼女が強いのだと断定した。
「それは君も……だよ?」
「なに?」
彼女はさも当然のように言い放ち、俺の体の隅々に視線を巡らせる。
「君の、魔力は、一見普通。だけど、気持ち悪いくらいに、無駄がない。どれだけ卓越した魔術師でも、10の魔力を使う魔法を、15くらいで放つ。そういう仕組み。でも、君はたぶん、10を10で放つ。明らかに、おかしい」
「魔力のロスは確かに防ごうとしている。だが……余り意識したことはない。言われて初めて気づいた程だ」
「見たこと無いのは、私も一緒」
そして彼女はなぜか頬を緩めた。初めて見た無表情以外の表情だった。でも、デフォが余りにも無表情すぎてそこまで変わったようには見えないな……。
「私、パトリシア・エルミネード。よろしく」
「ゼノン・レスティナータだ。よろしく頼む」
どうやら彼女……パトリシアと上手く友好を結ぶことができたようだ。
強さの秘密は……まあ、いずれ暴けば良い。わざわざしつこく聞いて本当にノヴァみたいになりたくないしな。
用は済んだ。
自分の席に戻ろうした俺は、眼前に立ちはだかる茶髪の男に気づいた。
明らかに敵意を込めた視線を俺に向けている。
「何か用か?」
「用か? じゃねぇよ! 席に着くや否や、俺たちのことはまるで眼中にねぇようにそこの女に話しかけるしよォ! 早期入学生様は一般生徒になんか興味ないってか? あぁ!」
「凄んでるところ悪いが違うな。王立学園に受かった以上、この場に立っている者は伸び代があるということだ。勿論お前も例外ではない。……俺が気になったのは、パトリシアの現時点ですでに確立した強さだ。この時期多くの者が躓く、戦闘スタイルの確立。前衛、後衛、補助、牽制、などそれぞれが自分に合った戦いの形を見つけなくてはならない。だが、パトリシアはこの眼で見る限り、自分の中の確固たる信念と自負を持ち合わせている。恐らく彼女の中で定跡はあるのだろう。そして、最たるは魔力の質だ。明らかに他の者とは努力量と修行方法が違う。俺は王立学園生を貶しているわけではなく、単にパトリシアの異常性について興味が湧いただけだ。決して他を軽視しているわけではない。努力次第で幾らでも人は強くなれる。俺は気になったことは確認しておかないと気が済まない質なんだ。で、そういうわけだ。分かったか?」
「お、おう……なんか……悪かったよ」
……?
よく分からないが、彼は気圧された表情で引き返す。
彼のいたグループからは「あいつやべぇよ……頭おかしい」などといった言葉が聞こえてきた。
解せない。
単に俺は間違った認識を正しただけだ。
別に俺はこの場にいる者を軽視したつもりなどないし、人など幾らでも変化する。ある日を境に恐ろしいくらい強くなるかもしれない。
王立学園に入学できたということは、まだ才能に陰りがなく、一定の実力を保証されているということだ。
どうして軽視できようか?
まあ、それゆえにプライドが高い人も多いし、早期入学制度を許せなかったんだろう。そこは追々だな。
「君も、大概、魔法にしか興味がない、んだね」
「そういうわけではないが。友人だったりと、人の繋がりの大切さは知っている」
「その、友人も、きっと魔法繋がり、でしょ?」
「…………」
そうと言えばそうだな。
……うん。
「ほら、やっぱり」
パトリシアはイタズラっ子のように笑った。
何だか見透かされているようで少々気恥ずかしく感じるが、俺はそれを表に出さずに手を振って踵を返した。
「あっっっぶねぇ!!!!! 遅刻寸前!!!!!」
そんな声が響く中。
……さてはまた歩いてきたな? ユノ。
ーーーーーーー
……ぷはっ(作者の自我の憑依)
ここで決闘だ! とかさせないゼノンくん。
レスバで勝った、というかレスバで相手を引かせた件。
銀髪オッドアイ、良いですよね……良いですよね!!(押し付け)
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