第19話 ゼノンについて Side ユノ

Side ユノ


 最初、俺の近くに豪華絢爛な馬車が止まった時は「あ、終わった……」って思ったぜ。

 俺の横を通り過ぎた馬車は、明らかに貴族の物だと分かったし、昔から村民たちは俺に口を酸っぱく貴族の理不尽さを説くもんだからもう恐ろしさと警戒でいっぱいだったな!


 俺の行動次第で村がバーニングファイアしたら困るしな。


 ──なのに話しかけられた時についつい「え、なに、急いでるんだけど」とか言っちまって!

 あん時はマジで死んだかと思ったね。

 実際、学園の入学式に遅刻しそうで目茶苦茶急いでたのは本当だったし、自分が思うよりもかなり切羽詰まってたんだろうけど……え、なに、急いでるんだけど、はねぇだろ〜〜!


 貴族依然の礼儀としてなかったわ。

 わりっ、ゼノン。謝っとく! 心の中で!


 まあ、でも実際会ってみた貴族……ゼノンは、村民の話に聞いていた貴族とは180°違くて。

 優しいし親切だし──────多分めっちゃ強い。


 俺は昔から肌感覚で何となく相手の強さが分かる。

 強い奴に会った時は、鳥肌が立って肌がピリッとした感覚を覚える。

 何となく「あーこいつは強いんだ」ってことが感覚的に分かる。


 まさしくゼノンがそうだった。

 校長のような外にまで魔力とかオーラが漏れ出てるような真の化け物は例外だけどな!!


 それでもゼノンは、校長のような純粋な強さではないナニカを感じた。俺の直感が囁いたね、これは面白い、ってな。


 元から戦うのはそれなりに好きだ。

 修行も、自分が着実にレベルアップを重ねている感覚というのは悪くないし、近くの森に魔獣が出現することもあって、修行の成果を実感することもできた。

 だからこそ、ゼノンのことが気になった。


 でもだからって、そんな理由で友達になりたいとか言ったら不純じゃね? って思ったな。

 友達になりたいのは本音だけど、そもそもゼノンとは身分も違うし、あっちも単に気まぐれで助けた可能性もあった。

 自分の感情だけでどうにかなる世界じゃない。

 踏み込みたいけど踏み込めないエリアもあるんだと俺は知っている。 


 けど──「校長に喧嘩売って黒焦げにされたらスカウトされた」。


 そんな言葉を聞いた時に「あ、こいつ逃しちゃダメだわ」って直感が言った。

 ここで攻めねば男が廃る。俺はもうゼノンと純粋に友達になりたいと思っていた。


 貴族とか関係ねぇわ。どうせ同じ学び舎で過ごすわけだし。話した限りゼノンも気にしねぇだろうしな。


 そんな思いで挑んだゼノンと友達になりたいの会は、色々な出来事を挟んだけど無事に成功したと言える……と思う! 多分! 知らねっ!





☆☆☆




「なあ、師匠。めっちゃ面白ぇ奴見つけたんだけどよ」

「あん? 修行中に雑談とは随分偉い立場になったのう……ほれ【グラビティ】」

「ぐっ……少し、くらい……良いじゃねぇか……!」


 物を浮かせる魔法を長期間使用することによって、魔法の操作練度を上げる、という修行を実行中、俺はスパルタクソジジイこと師匠に話を振った。

 モノの見事にキレた師匠は、俺が浮かせている物を上から押し付ける。かなりの重量がかかってめっちゃキツイ!

 でもこのクソジジイ、修行終わったら速攻で家帰るから話すタイミングが修行中くらいしかねぇんだよ……。


「まあ、耐えきれたら話しても構わんが」

「へぇ、言ったな?」


 俺はその言葉にニヤリと笑う。

 言質は取った。師匠は俺がまだ入学式以前の俺と変わらないと思ってんだろうな。

 ま、そんな短期間で成長することなんてほとんどねぇし仕方ないけど。


 だが!!

 俺はゼノンから教わった技能と、ゼノンの魔法を俺なりに解析した下地があんだよ。


 俺は魔力を瞳に集中させ、自分の体を見下ろす。

 ありとあらゆる場所から魔力が湧き出ていて、非常に非効率だと我が事ながら分かる。

 これを……一つの場所……手のひらから出すようにして魔力の漏洩を防ぐとともに、単純な威力向上を図るのだ。

 ちなみにゼノンは無意識でやってた。さすがだわ。

 

「うぉおおおお!!!!」

「むっ?」


 叫びとともに物体の操作に力を入れ、ついに師匠が上から押し付けている重力の圧から抜け出すことに成功した。

 俺がやったのは、魔力放出の効率化。

 実はゼノンが試験で魔法を披露した時に、瞳を強化して魔力の流れを見てたんだよ。そしたら何と、魔力漏れゼロ!

 あれこそ効率化の極みだったね。

 俺でもまだ真似できねぇし。


 ま、それを自分なりに落とし込んで改良したのが今の一連の流れだったりする。  

 やっぱりゼノンはすげぇ。俺の先を行って、道を示してくれる。

 だからといって後を追うことだけはしねぇけど。

 ゼノンにはゼノンの。俺には俺の道がある。


「へへっ、どうだよ師匠。耐え切るどころか抜け出してやったぜ?」


 俺が挑発的な笑みを浮かべつつ師匠に言うと、師匠はすっかり白くなった髪をガシガシと掻いてため息を吐いた。


「どうやらこの短期間で良い出会いが会ったようじゃの。約束は守る。聞いてやろう」

 

 負けておいて何だその言い方は! なんて思うけど、師匠にはまだ一度も勝ててねぇしな。実際上だから何にも言えねぇ……。

 いつか絶対勝つからな。


 と、思いつつ、俺は入学式の日に起こったことは師匠に話し始めた。

 じっくりと師匠と言葉を交わしたのは初めてだったけど、意外にも相槌を打ちつつ興味を持った表情で顎髭を触る師匠に、俺はちょっぴりだけ嬉しくなった。

 

 その日は初めて修行よりも師匠との会話が多かった。

 

 

 ゼロ……先生? の言葉を認めるのは癪かもしれねぇけど、俺と師匠の出会いは良いものだった……そう少し、素直になれた……


 気がした!!!!!

 でも修行スパルタだからやっぱ認めたくねぇんだって!!!



 

 

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