第18話 合格基準と魔法談義
「んで、結局何が合格の基準だったんだ? ゼノンのヒントのお陰で、大まかには分かってっけどさ」
「俺も全てが正しいとは思っていないが、恐らくは最も少ないリソースで的を破壊できるかを計る試験だな。ユノも瞳を強化した時に気づいただろうが、あの的は一定量の基準を超える魔力や衝撃が加わると硬化する仕組みだろう。逆もまた然りで、威力が弱すぎると的を破壊することができない。どれだけ適切に攻撃の威力を調整できるか……それが試験の趣旨だろう」
軍、騎士、宮廷魔術師、冒険者……と、どの職に進むかは分からないが、いずれにせよ何かと戦うことになるのは確実だ。
その時に例えば人間が爆発物を持っていた場合。一定の衝撃が加わると爆発する魔物を相手にする場合。
威力の調節は必須となる。……まあ、爆発物を持ってた場合は無効化のために捕縛を選ぶと思うが……俺が言いたいのは戦闘時のシチュエーションだ。
魔法にしろ拳にしろ剣にしろ、如何なる場合であっても威力の調節はしなければならない。
自分の撃った魔法の余波が罪のない一般人を巻き込んでしまったら? 味方を傷つけてしまったら?
前に俺は攻撃の威力=強さではないと論じた。
その最たる理由がこれだと思う。
適当に上級魔法をポンポン撃って、俺強い! 最強! うぇぇい! なんてマジで馬鹿のすることだろ。
おい、お前に言ってんだぞ、ノヴァ。
その気になれば国を壊滅させれる固有魔法を、二人の人間を黒焦げにするまで威力を落とした技量には感服だが、いくら何でもやり過ぎだと言いたい。分からせたい。
心の中でメスガキに対する分からせ熱を再燃させつつ、俺は俺の推理が合っているだろうか、とゼロに視線を送る。
彼女は、人差し指を立てて言った。
「少し補足を。大まかな試験の趣旨としては、ゼノン様の言っている通りです。ただ、攻撃の威力の大きさが一番分かりやすい指標であることも事実です。ですが、威力の大きさだけでは通用しないことが世の中には腐る程あります。今回、早期入学制度を採用するにあたって、校長から『特別な才能を持った人物をスカウトする』という言質を取りました。故に、教員一同、全員が特別な才能を持っていることは把握しているのです。その上で、確かめたかったこと。それが、王立学園生なら当たり前にできる威力調整です」
ゼロは一息ついた後、呆れの伴った表情で続ける。
「……本音を言えばですが、威力こそ強さだ、と喧伝する馬鹿を入学させたくないのですよ。すぐに死にますからね」
「思ったより本音らしい本音だな。まあ、正しいが」
「そういえば……俺の師匠も、単に強い魔法を放てる奴を相手にするよりも、基礎がしっかりした魔術師を相手にする方が面倒臭い、って言ってたなぁ」
腕を組みながら過去を振り返るユノに、ゼロは微笑みかけた。
「おっしゃる通りです。良い師匠に巡り合いましたね」
「えぇ……? まァ、そうなんだろうけどスパルタ過ぎて良い師匠とか認めたくねぇな……」
苦虫を噛み潰したような表情に俺とゼロは笑みを浮かべた。原作とは違う師匠のようだが、ある意味それは正解だったのかもしれない。
原作主人公の師匠である騎士団長は、とても性格が良く教え方も上手かったが、如何せん主人公に激甘だった。それが主人公の自惚れを助長させていたのだ。
ま、それも今や関係のない話か。
「厳しくても、強くなるための術を学べたのは良いことだろう。可能なら俺も会ってみたいものだ」
「え〜〜、マジで? まあ、俺の村に来てくれれば会えるけど……隠居してて誰にも会いたくないとかほざいてるしなぁ……」
「可能なら、の話だ」
ユノを鍛えた元宮廷魔術師。
気にならないと言えば嘘になる。というかほざくて。
……まあ、力を持った者こそ隠れ住む傾向にあるからな。隠居しているのならば仕方ない。
「そっか。──あ、そういえばゼノンって師匠とかいんの?」
「ん? いや、独学だが」
「え、キモ……」
「今度は【雷激】で焼いてやろうか?」
「い、いや、違うって! あれだよ、あれ! キモいって言葉が漏れるくらいすごい、ってこと! だから……ハイ、【電撃】? も結構痛かったんで勘弁してくれると……ハイ……ゴメンナサイ」
思わず漏れ出た、と言わんばかりの「キモ」に眉を顰めて指摘すると、しどろもどろになりながらも最終的には普通に謝ってきた。
お互いに冗談と分かっているからできる言葉の応酬だが、本当に会って一日か? 逆に俺が疑ってきた。
「冗談だ。だが、まあ家庭教師はいたが、今俺が使っている魔法の類は全てオリジナルだ」
「私もゼノン様の魔法には興味が惹かれますが、固有魔法に関しての詮索はマナー違反ですので、何も言いません」
「へー、そうなんだ。じゃあ俺も聞かないわ。使いたかったら素直に教えを請うか盗むしな」
「こういうところはノヴァとは違うな……」
俺は小声で呆れとともに呟く。
別に聞いてくれても構わないが、言っても教えても身につかないと思う。前世でも日本語は複雑怪奇扱いされていたし、漢字の概念と種類を憶えることは相当時間と根気がいる。
それに俺も憶えてない漢字なんて山のようにある。教えられる幅も少ないだろう。
──そんな話をしながら過ごしていると、ゼロがふと慌てたように言った。
「あ、すみません。そろそろ用事があるので失礼します。これにて試験は終了になります。また学園で会える日を心待ちにしています。では」
「また入学の日に」
「ありがとうーー!! じゃあな!!」
そうしてゼロは訓練場から姿を消した。
入学の日にはまだ二週間ほど日数がある。ユノの荷物の少なさから、いきなり寮に行くわけでもなさそうだし、一度帰る予定なんだろう。
「では、俺たちも帰るとしようか。テト村まで送ってやる」
「マジで!? 本当に助かるわ!! ぜっったい何かでお礼するから楽しみにしてろよな!!」
「不安だな」
「なんで!?」
帰りの足が無いユノのことは当然送って行く。
ここまで来て、はい、自分の足で帰ってください、とか鬼畜すぎる。晴れて友人にもなったことだしな。
俺とユノは軽い足取りで元来た道を戻る。
ユノのテンションの高い会話に相槌を打ちながら、ゆっくりと。
こうして学園が始まると思うと、何だか楽しみになってくる俺がいた。
──まあ、当然ユノの前でそんなことは言わないが。
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