第17話 適性試験
ゼロに案内されて、魔法訓練場までやってきた。
ここは校長が直々に作った施設らしく、魔法の耐久力が優れているらしい。どんな魔法を放っても壊れない、ということだな。
そう言われると一度ぶち壊したくなってしまうのが悪役の性というものだが、生憎とこの結界を打ち破れる程の魔法を有して……いや、例の光魔法ならば貫通できる可能性はあるが、如何せん実力を見る試験で実戦に向かない魔法を披露するのも気が引ける。
一体何が採点基準なのか。それが試験の命運を分けるだろう。単に威力の高い魔法を放って、はい合格、なんて天下の王立学園が許すだろうか?
──無い。100%無い。
幅広い知識と実力を身につけるために作られたのが王立学園だ。ただ威力の高い魔法が実力とは言えるか?
それを実力と言い張るのはただの馬鹿だな、うん。
「……他の方はすでに試験を終えたようですね」
「俺たち以外にも早期入学制度を使用した者がいるのか」
「なんか校長がお前で最後だ……! はぁ、やっと終わった、とか言ってたぜ」
「選ぶ基準は分からないが随分と適当だな」
まあ、しっかりユノをピックアップしてる限り、ノヴァ独自の選抜といえど何かしらの基準点はありそうだ。
……悔しいが魔法使いとしてはノヴァを尊敬している部分はある。奴は決して才能に傲ってるわけじゃなく、しっかりと努力をする工程を踏んで、頂点の座に君臨した。
そんなノヴァが選んだ奴らだ。きっと強いのだろう。
3年間競い合えることが今から楽しみになってくる。
「私にも校長のことは分かりませんから。何十年ともに過ごして分からないのなら、それはもう物の怪の類か何かです。理解はできないものとして考えた方が懸命でしょうね」
「主人を物の怪扱いして良いのか……」
「ただの腐れ縁ですよ。使い魔といえど主従関係も信頼関係もあるわけじゃないですから」
辟易したように言うゼロ。
確かに原作アニメでもノヴァとゼロの絡みは少なかった。何処となくゼロが主人公の師匠をしていたのも、ノヴァに対する鬱憤を晴らすためであったのかもしれない。
微かな反抗か。
ただノヴァがゼロに対して何とも思っていない、というのは違う。
簡潔に言うが、まず──ゼロは死ぬ。
例の如く主人公補正とクズ主人公に巻き込まれて。
仔細は省く(ユノがこの状態のため無いと判断)が、死んだと報告を受けたノヴァは、表面上は無を貫いたが、自室に戻った後に激しく酒を呷った。
その瞳には一筋の雫すら垂れていたのだ。
これで何とも思っていない訳が無い。
……そういう一面があるからどうにも憎めないのか。
癪だな!!
「ふーん、そういうのもあるんだな。でも、何とも思ってなかったら何十年も一緒にいなくね? 俺だったらそんな人と仕事したって上手くいかねぇし、俺が離れるかあっちから離れてもらうか、だなぁ……」
ユノが染み染みとした様子で頷きつつ言う。
お世辞でも美辞麗句でもない、本音で言っていることは真剣なユノの表情を見ていたら分かった。
だからこそ俺は、お節介と言われようが言葉を付け足す。
「魔物が主従関係無しで側にいる理由。見ないフリをしていないで一度思い直せば良いと思うが……まあ、圧倒的年上の貴女にする説法ではないがな」
「圧倒的年上は余計です」
そう言ってゼロは俺とユノの頭を小突いた。
今までに見たことのないような微笑みだった。
これ程綺麗な笑みは、原作アニメでも見たことがない。慈しみ……喜色に富んだ笑みは、どこか呆れているようでもあった。
「そうですね……すぐに変わるようなことでもありませんが……圧倒的年下の貴方達に言われたなら──今度夕飯をともに過ごすことくらいはしてみましょうか」
圧倒的年上、と言ったことの意趣返しか、年下という言葉を強調して俺をジト目で見るゼロ。
すぐに変わることはない。これは紛れもない本音だろう。
特段ゼロとノヴァの間に確執と呼べるべき存在はない。ただ、お互いに接し方が分かっていないのだ。ユノの激励と俺のお節介。それがきっかけになってくれたのなら御の字か。
ま、原作を変えて救ってやろう、なんて気持ちも別に無い。俺は俺のことで精一杯で、自分の手の届く範囲にしか手を伸ばさない。
全てに綺麗事をくっつけて救った先は、原作のクズ主人公だ。あれは端から色々破綻してたけども。
「さて、気を取り直して試験です」
「「……!」」
俺たちはその言葉で意識を切り替える。
「まずは注意事項です。この試験は千里眼の魔道具によって記録され、後日順次教員に試験結果の通達と、試験の内容を魔道具によって公開します。これは必要なことですので、ご留意ください」
なるほどな……。
やはり俺の推測は当たっていたらしい。教員に実力を示すことが第一の試験内容のようだ。
千里眼の魔道具……まあ、簡潔に言えば録画か。
随分と便利な道具があったものだな。
「試験内容ですが、あちらをご覧ください」
ゼロが指差した先には、複数の金属でできた的があった。
「あれを魔法もしくは、何らかの手段で破壊してください。それが試験内容です。こちらは受験者同士の話し合いは自由です。その代わり、試験は一人ずつ行っていただきます」
「話し合い自由? どうやって壊すかって? そんなのただ高威力の魔法をぶっつけてぶち壊せば…………うーーん、そうじゃねぇのか……どゆことだ?」
「──試験はすでに始まっています」
なるほど、ね。
ユノは試験の趣旨は半分理解して止まった。この試験がただ的を壊すことじゃない、ということには気づいたようだが、そこから先が進んでいない。
すると、ユノが挨拶でもするように突如言った。
「ゼノン!! 分かんねぇ!! ヒントくれ!!」
「くくっ……俺がもう分かっている前提で言うのか」
「分かってるだろ? ゼノンだし」
いや、今日初めて会ったんだけど。
それはともかく笑い方がイタくなっちまった。反省。
冗談はともかく、正解かは分からないが大凡の察しは付いている。
「例え俺が分かってるとして、答えを聞かないのか?」
「や、試験なんだろ? ゼノン一人おんぶに抱っこじゃ何の意味もねぇだろ」
キョトンとさも当然のように言い放ったユノに、俺はまた笑いそうになった。……どれだけ性格良くて俺の中のユノの株を上げれば気が済むんだ。上場してしまうぞ。
「違いない。そうだな……ヒントか」
「おう、自力で気付けるレベルの最高なヒントを頼むぜ」
「ハードルを上げるな。……まあ、強いて言うなら、ユノはスライムに身体能力強化を施して全力の魔法を叩き込むか?」
「はえ? いや、そんなん魔力の無駄だからしねーけど」
「そういうことだ」
「……マジ? んー……あー、あっ……」
しばらく唸った後、何かに気がついたユノは唐突に瞳を魔力で強化した。ボワっと魔力が瞳に集まり形作る。
その視線は金属の的に向いていた。
……これは気がついたか?
「ほーん、なるほどな。あーー、ゼノンの言ってたことはそういうことか」
ユノはニヤリと笑う。
そして魔力を紡ぎ出した。
「【エナジーブラスト】」
ユノの放った魔力の奔流が、一直線に的へと向かい──的は跡形もなく弾け飛んだ。
──無属性魔法、エナジーブラスト。
純粋な魔力に破壊力を持たせて射出する、単純な技だ。
だが、一つミソなのが、込める魔力によって威力を細かく調節できることが挙げられる。
そして俺は、ユノに間髪入れずに魔法を発動させる。
「【雷激】」
魔法陣から放たれた魔力で形作られた雷は、目では追い切れない速度で的へと向かい、ユノと同じように跡形もなく消し飛んだ。
これは、ノヴァに放った【電撃】を、俺なりに威力、速さともに向上させた俺だけのオリジナル魔法。ようやく実戦で使用することができた。
半年の努力が実を結んだとも言える。
「すっげ……対抗策二つくらいしか思いつかねぇ」
──逆に二つも思い浮かぶのかよ。嫌味か!!
……ただ声音が純粋な称賛だから何も言えない。
消し飛んだ的を少し眺めて、後ろで見ていたゼロに向かって振り返る。
俺の視線に気づいたゼロは、俺とユノを交互に見て薄い笑みを浮かべ言った。
「お二人共、合格です」
「いぇえええええええええええええええええええいいぃぃぃぃ!!!!!!!!!!! ひゃっほぅぅうううううううううううう!!!!!!! うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「【電撃】」
「オフッ……」
うるさい。
ーーーーーーーーー
合格理由は次回に。
……【雷激】じゃなくて【電撃】なことにゼノンの優しさを感じますね!! HAHAHA!!
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