第16話 氷の龍王

 入学式は恙無く進行した。

 列に並んで辿り着いてしまえば、後は自動的に会場まで案内された。急がば回れ、ということだったな。

 ちなみに校長は入学式に姿を現さなかった。大方興味のない奴らに構う時間が勿体ない、とかそんな感じだろう。

 ……ある意味ブレないな。



 入学式が終わり、帰る準備を整える俺とユノ。

 すると、後ろから女性が声をかけてきた。


「ゼノン・レスティナータ様、ユノ様ですね?」


 振り返ると、そこには腰ほどまである長い銀髪に青い瞳を携えた女性がいた。

 女性はゾッとするほどに美しく、ただひたすらに無表情だった。それがまた女性の神秘性を高める。

 

「おいおいおい、また派閥の誘いか? 俺とゼノンは親友だから何でも分かんだよ。ゼノンは派閥より俺といたい、ってよ!」

「捏造するな知り合い」

「降格してるし!!」

「それに落ち着け。その手の類ではない。……貴女は校長の使い魔だな?」


 女性に問うと、彼女は微かに驚いたような表情を浮かべて頷く。


「よく分かりましたね。それなりに擬態は得意だと自負しておりましたが」

「えぇ!? 人間じゃねぇの!?」

「良く見てみろ。魔力の流れと質が、人間とは微妙に違う。魔力回路と個がある故に式神でも無いだろう。魔物を調伏したか、幼体から育てたか……分からないが、少なくとも今の俺では逆立ちしても勝てないだろう」

「……マジ?」


 ユノが恐る恐るといった様子で女性を見る。

 

 ──化け物だ。

 振り向いた時に表情に出さなかったことを褒めて欲しいくらいだな。

 魔力の総量も質も段違いだ。

 ノヴァが大海のように深く沈み込むような魔力だとすれば、この女性は煮え滾るマグマのようにドロリと粘質があって、激しくうねっている。

 

 俺はこの女性を知っている。

 主人公を教え、導き、学園での師匠役を務めた準最強キャラ。


 校長、ノヴァ・ミストが卵の頃から育てた使い魔であり、その正体は魔物の頂点である龍種の一体。


 氷の龍王、ゼロ・ミスト。


 

 肩書きは俺並みにイタい。

 ……そもそも生物形態からして桁違いな龍に今の俺は勝てない。あくまでだが。

 当然だが、俺は勝てない相手に勝てないと思考放棄するようなことはしない。

 今の勝てないなら一年後。それでも勝てないなら二年後、とひたすら努力を重ねるだけだ。努力を超える修行法は存在しない。

 放っておいても強くなる奴は、努力して強くなる奴には絶対に勝てない。


 俺は、今は敵わぬ龍王に闘志を燃やす。

 そんな俺を興味深げにジッと見つめる龍がいたのだが、俺は気づかなかった。



「ふふ、私はゼロ・ミスト。ゼノン様の言っている通り、校長の使い魔です。……ところで、魔力を見るとなると……ゼノン様は魔力感知のスキルを持っているのですか?」

「いや、俺にスキルは無い。ただ瞳を魔力で強化しているだけだ」

「……よく失明しませんでしたね」

「魔力操作には自信があるんだ」


 どこか呆れたようなゼロに俺は首を傾げる。

 アニメでは大体の奴が同じことをしてたから一般技能かと思ったんだけど……違うのか? まあ、便利は便利だしあまり気にしなくても良いか。

 原作との差異なんて今更だし。


「……あ、できた。ほへー、これが魔力回路かぁ……」

「「……」」


 さすが主人公、な部分を垣間見た。

 大した苦労もなく瞳を魔力で強化することに成功したユノだが、実際は宮廷魔術師だった師匠に教えられてきた魔力操作の下地があるだろうし、できるのは当然……と言わずとも不思議ではない。


「さて、何の用だ?」

「あぁ、そうでしたね。──貴方方には、これから入学試験を受けていただきます」


 その言葉に俺とユノは互いに顔を見合わせる。


「試験? 確かに早期入学制度では、試験が免除される仕組みだが……入学が決まったこの段階で試験を行うのか?」

「えぇ……俺昨日決まったからペーパーテストとかあったらできる気がしねぇんだけどよ……」

「安心してください。この結果で入学が取り消されることはありませんし、実技のみです」

「よしっ! 実技なら大丈夫だぜ!!」


 げんなりした顔をしていたユノは、実技と聞いて元気を取り戻しファイティングポーズを決め出す。調子のいい奴だな。

 単純すぎるユノはともかく、俺は少し引っかかる部分があった。


 ならなぜ試験を行うんだ?

 ……いや、待てよ? ユノは昨日決まったと再三言ってたな。ということは──


「──校長以外の教師に実力が知れ渡っていないのか。早期入学制度は恐らく校長の独断と偏見で決められているだろう。ユノなんかは昨日いきなり言われたと。つまり、俺たちが本当に王立学園生として正しい実力を持っているのか。それを測る適性試験というわけか。そして、校長が選んだだけに入学は取り消せない……が、幾らでもその後の待遇は変えられるわけだ。まるで騙し討ちだな」


 入学は取り消せない。これは確定事項だ。

 校長とはそういう存在だ。鶴の一声であらゆる暴挙がまかり通ってしまう。

 それでは平等を謳っている王立学園としては、厳しい試験を潜り抜けてきた一般生徒に示しがつかないだろう、と、今回早期入学制度を使用して入学してきた俺たちを試そう、ということだ。

 王立学園生に相応しい実力を持っていれば受け入れ、相応しくないと判断すれば待遇を悪くする。針のむしろ状態にさせ、自主退学を促す目論見でもありそうだな。


 ……不可抗力で入学してきたユノのような存在がいた場合、とんだ騙し討ちだ。だが、客観的に見ればそうせざるを得ないのも理解の範疇にある。

 

 まあ、単純に実力を示せば良い。

 いつだって評価は他人に依存する。努力の成果を見せる機会が来ただけだな。


 当然だが自重するわけがない。

 目立ちたくない、などと言って己の評価を下げることは許されない。目立ちたくない結果、実力が正しく評価されないのは何よりも屈辱だ。



「……平たく言えばそうですね。貴方方に罪はありません」


 申し訳無さそうな表情で俺たちを見るゼロに、ユノは徐ろに両の拳を打ち付けてニカッと笑う。儚げな顔とは裏腹に活力に溢れた笑顔だ。


「ハッ、ようは実力を示せば良いんだろ? なら簡単じゃねぇか。試験でも何でもかかってこい、ってんだ。謝る必要なんかないぜ! むしろチャンスだろ! こんな早くに教師に実力をアピールできるとか!」

「そうだな。俺も別に気にしてはいない。正しく実力を評価してくれるのならば、文句など付けようがないだろう」


 ……少し、楽しみになってきた。

 ノヴァに敗北してから、俺がどれだけ強くなったのか。

 ユノはどれ程の強さを持っているのか。


 試験というのも有り難いかもしれないな。





ーーーーー

どっちが今作の主人公やねん。

まあ、性格が良いのは紛れもなくユノの方です。

ゼノンは原作ゼノンくんも微妙に混じってるので。


進みが遅いですが、これから物語を加速させていく予定です。

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