第14話 悪役と主人公
うん、こいつ主人公だ。
でも俺の知ってるカスとは話し方もパッと見た性格も似ても似つかない。他人の空似と言われた方が納得だ。
だが、ユノの首元には赤い宝石のネックレスが着いている。これは主人公の母親の形見のはず。
ここまでピースが揃ってしまえば認めるしかない。
「……なんで俺は主人公なんかを乗せてしまったんだ」
「ん? 今何か言いました?」
例に漏れず難聴系か。確定だなこれは。
でもなぁ……180°俺の知ってる主人公じゃない。
原作アニメの主人公は、典型的な優男みたいな話し方で「〜かい?」とか「〜だよね」とか「あはは……そうかな?」みたいな喋り方なはず。貴族相手にも似たような口調だから、今目の前にいるユノとは全く違う。
──遅刻させておけば良かったな!
心底そう思う。
主人公という存在は、ただひたすらに厄ネタだ。何もしていない一般人を主人公補正というクソみたいな存在がトラブルに巻き込んでいく。
平穏に過ごしたい者からしたらたまったものじゃない。
……しかしセレスの鑑定スキルの発芽のように、アニメとは違う展開が起こっていることは十分にあり得る。
「ユノ」
「何ですか?」
「お前はどこの村出身だ?」
「えーと、俺はテト村、ってとこです。まあ、年寄りしかいない村ですよ」
──アニメとは違う村だ。
アニメ主人公の住む村はシャイン村だ。……ダッサ。
……ともかく確定だ。
人の性格は周りの環境が形作る。悪辣な環境で育てば、それだけ悪に触れる機会が多くなり、自身のアイデンティティの根幹に悪が根付く。
両親に愛され、良い環境で育てば、人を愛し愛することができる。
一概に正しいとは言えない。良い環境で育った好青年がある日闇堕ちすることだって十分にある。そもそも良い環境なのか悪い環境なのかも主観なのだから、両親に愛されること=良い環境とも言えない。
しかし、確率論で言えば一考の余地があるのではないか。
原作アニメのシャイン村では、主人公以外にも多くの若者がいて、他者と比べられ持て囃される環境が整っていた。
所謂俺tueeeeの太鼓持ち要員が腐る程いたのだ。
そんな場所で育てば、当然調子に乗る。僕は特別なんだと鼻高々に誇るようになってしまうのも無理はない。
……悲しいことに主人公には特別だと言えるだけの才能や能力があったから矯正できなかったわけだが。
しかし目の前のユノは俺の知らないテト村という場所で育ったと言う。どうしてそこで育ったのかは知らないが、彼の言う通り年寄りしかいないのならば、太鼓持ち要員がいないと言えるだろう。
つまり、調子に乗ってしまう要素が省かれたのだ。
……なんだこいつ転生者か?
いや、転生者なら俺の顔を見ただけで嫌な顔するだろうし違うな。
「テト村か。恐らくお前も早期入学制度で入学するのだろう?」
「はいっ。なんか農作業してたら上から校長降ってきて、無理やり契約書書かされたんですよね。昨日」
「昨日……? やはり無茶苦茶だな……。それは災難だったろう。それと、敬語は不要だ。これから同じ王立学園生なのだから」
昨日いきなり言われたらそりゃ遅刻するわ。
馬車の工面も一日じゃ不可能だし、色々な準備がある。強いから我儘が許されている校長とはノヴァのことだ。
いつか分からせる。
「そう……か? いやぁ、お貴族様にタメなんて誰かに殺されねぇかな」
「俺が良いと言っているのだから周りの雑音に振り回される必要などない」
「ひゅ〜! 格好良い!」
「……」
主人公に敬語を使われるのはムズムズするから言ったが、調子に乗っている……じゃなくてこいつただのお調子者か。めんどくさいな。
許した途端に煽り始めるの心臓にぶっとい毛でも生えてんのか?
「……まあ良いか。魔法は独学か? 剣は?」
「なんか村長が昔宮廷魔術師やってたみたいで、その人に教えて貰ってたなぁ。あのスパルタジジイは絶対許さねぇ。あ、剣はからっきしだぜ? 魔法で身体能力上げてぶん殴るのが一番早ぇし」
村長が宮廷魔術師、ねぇ……。そこの主人公補正はやっぱり機能してんのか。剣に関しては脳筋思考を聞いた気がするけど、まあスピードタイプなら実際殴った方が早いし。
「王立学園は剣術、魔法ともに卓越した技能が求められる。留年したくないのなら剣もしっかり学んだ方が良い」
「えー、まじか……。剣で斬るより身体能力上げて拳に風魔法付与して内臓グチャグチャにした方が良くね?」
「物騒だな! ……いや、効率の面ではそうかもしれないが、卒業条件の一つに剣で中位魔物複数体を討伐、というものがあるんだ」
「なるほどなぁ。それなら仕方ねぇか」
複数のクエストを在学中に達成。そして単位が貰える。
簡潔に言えば、これが王立学園の仕組みだ。
軍学校や貴族学校とは違う、専門的な分野を一極集中で学ぶことではなく、幅広い分野を質の良い環境で学ぶ。
そして学園生の自立を図るのだ。
実際、軍学校や貴族学校は卒業と同時に就職先が反強制的に決まってしまうが、王立学園は様々な選択肢が存在する。
実力を試しに冒険者になるも良し。伝手と実力で宮廷魔術師になるも良し。騎士団に入団して剣の腕を磨きつつ己の地位と名誉を高めるも良し。
俺がユノを質問攻めにしていると、ユノは俺の話を遮って瞳を輝かせつつ問いかけてきた。
「なぁなぁ! 俺の話はとりあえず良いからさ。お貴族様の話聞かせてくれねぇか?」
「お貴族様はやめろ……。俺はゼノン・レスティナータだ」
「そっか、じゃあゼノン! ゼノンはどうやって校長にスカウトされたんだ?」
ユノの前のめりな態度に気圧されつつ、俺は苦い表情で簡潔に答えた。
「校長に喧嘩売って黒焦げにされたらスカウトされた」
途端にユノは爆笑した。
「──うひゃひゃっ!!! なにそれ!! ゼノン、お前馬鹿かよ!! 人類最強だぜ? あの魔女に喧嘩売る? 俺なんか一目見た瞬間、内包魔力ヤバすぎてチビりそうになったのに!! うははっ!! おもろ!!」
「そんなに笑うことないだろ。ただ俺の矜持を魔女が認めただけだ。その上で俺は実力を示さなければならなかった。……まあ、護衛諸共黒焦げにされたが」
なおも爆笑するユノに苦言を呈するが、彼は依然として爆笑しつつも、俺の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……なあ、俺たち仲良くしようぜ」
えぇ……。
「何で嫌な顔するんだよっ!!」
バレたか。……いや、なんか主人公に仲良くしようとか言われたら怖いじゃん? 主人公補正のしわ寄せが全部こっちに流れて来そうだし。
……なんて言えるわけないし、アニメと違う主人公……いや、ユノがどんな生き様を描くのか気になるところではある。
原作通りクズになるようなら……まあ、それは置いておく。
「冗談だ。よろしく頼む、ユノ」
「おう! よろしくな! ゼノン!」
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嬉しいことに皆さんのお陰でランキングが上がってきました。
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金髪碧眼では儚そうな見た目してるくせに「〜だぜ」口調で頭筋肉な拳で戦う武闘派ユノくん。
ちなみに→拳に魔法付与(クソ難しい)
→内臓グチャグチャ(クソ難しい)
→身体能力魔法(強化率低め)
全部今作の主人公、ゼノンはできますが、サラッとユノも人外です。
なんだこいつら仲良しかよ。
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