第11話 決心
「ふふっ……くふふふふっ、この私に。無陣の魔女とまで言われた私に喧嘩を売るなんてねぇ……。君、面白いね」
──ミスったか。
だが手の内を晒すわけにはいかない事情もある。
俺には師匠もいないし、『漢字』という言語をどこで学んだのかも言うことができない。
適当にでっち上げたところでこの魔女にはどうせバレる。
晒すのもダメ。誤魔化すのもダメと来たもんだ。
……俺ではどう足掻いてもノヴァに勝てない。
蟻と象ほどの力の差がある。俺の放つ魔法どれもが、奴の魔法障壁に阻まれて消えていくだろう。
だが勝てない勝てないと喚いていたって、この傍迷惑な魔女は満足しない。俺だって諦めて絶望するのは死んでからだ。死ぬまで俺は生きている。生きているなら諦めない。
「お前が俺の技術を力づくでも奪うというのなら。どれだけ力の差があろうと、生きている限り抵抗させてもらおう」
「──へぇ」
俺は魔法陣を描く。
無言のまま、俺とノヴァは互いに魔力を高めていく。まさに一触即発。
魔法陣を用いずに魔法を放てるノヴァは、いつでも魔法をノータイムで放つことができる。しかし、魔法を放つ瞬間は、さすがのノヴァでも魔力に揺らぎがあるはずだ。
その揺らぎを視る。
反射だ。脳を介すな、脊髄で魔力を込めろ。
見逃すな。見逃すな。
注視しろッ! 奴の魔力をッッ──!
──揺らいだ。
「【電撃】」
「【
☆☆☆
「──中級魔法相手に固有魔法繰り出すアホがどこにいるんだよ」
見知った天井で目覚めた俺は、開口一番苦々しげに呟いた。
「負けた、か」
勝てるとは思っていなかった。
だがただで負けてやる気もなかった。せめて何か一矢報いようとしたのだ。……まあ、それも叶わずだけど。
否が応でも認めざるを得ない強さ。
あの時俺の魔法の方が一瞬だけ早かった。魔力の揺らぎを視た俺は、ノヴァが魔法を放つコンマ数秒前に【電撃】を発した。
持ち前の魔法で最も発動と飛来速度の速い魔法だ。
魔法を放つ瞬間は、きっと奴の魔法障壁も薄くなる。
俺の魔法でも防御を突破することが可能……かと思ったんだが。
「俺の魔法ごと全部吹き飛ばしやがった。庭の修繕費どうなってるかな……。いや、そもそも明らかな格下に固有魔法使うな。どうなってんだあのメスガキ、大人げないな」
メスガキに対して大人げないって、すごい矛盾だな。
……はぁ。グチグチ文句言っても負けた事実は変わらん。
「分相応な啖呵切って呆気なく負けとはまさしくカマセ犬だな。……あ゛あ゛悔しいっっ……!!」
ムカつくっ!!!
勝ちたいと思った自分と、負けて仕方ないと言い訳してる自分がいる。その不甲斐なさにも、あの戦闘自体にもムカついている。
大技が来るのを読めれば風魔法で距離を取れた。
あの【
反省は多い。
だからこそ、
「次は負けない」
絶対あの幼女を分からせてやる。
もしかませ犬が世界最強に勝ったら?
そんなの絶対格好良いに決まってるだろ。
──コンコンコンコン。
そう決意を新たにしていると、ノックの音が響き、扉から父上が入ってきた。
「起きたか。調子はどうだ」
「変わりありません」
「そうか。さすがに黒焦げで半死体になって運ばれてきた時は驚いたぞ」
「──黒焦げで半死体?」
え、待って俺そんなに酷い状態だったの?
「あぁ。曰くやり過ぎちゃった、テヘペロ、らしいが、半死体にした下手人がご丁寧にも治癒して帰っていった」
「……」
やっぱあのクソ魔女絶対許さねぇ。
通りで体に怪我一つもないと思った。そりゃ治せば何もないわな。
「ちなみに近くにいたあの護衛騎士も黒焦げになっていた」
あぁ、お前そういえば近くにいたな……。
俺が命令したからずっと控えてたのか。すまん。
「……申し訳ありません。戦闘になったのは俺の責任です」
「いや、良い。あの魔女に絡まれたとなれば仕方あるまい。天災にでもあったと思え」
そう語る父上はどこか遠い目をしていて、あぁ、似たような経験があったんだなぁ、と伺い知れた。
というかサラッと天災扱いされるノヴァ。
「それに。悪いことばかりじゃない」
「?」
父上は俺に一通の便箋を手渡してきた。
ペーパーナイフでそれを開け、中身を検める。
「『王立学園入学推薦状』……? 来年度? これは……どういう」
「奴が言うには、早期入学制度の案内らしい」
「早期入学制度? そんな制度は聞いたことありませんが」
「さっき作ったらしい」
「……」
やりたい放題じゃねぇか。
「お前宛の手紙も受け取っている。読みたくないだろうが読め」
「あぁ……はい」
手渡された手紙にはゼノン・レスティナータへ、と書かれていた。
『ゼノン・レスティナータへ
手加減しようと思ったけど君の【
それで本題だけど、君を王立学園の早期入学制度に推薦することにした。この制度は、才能ある者を早期に学園に通わせることで才能を擁立するんだ。……まあ、最もさっき作った制度だから君のための制度みたいなものだけど。ただ上層部の人からちょっと怒られたから後4人くらい早期入学制度を適用しなきゃいけないから、君に同い年の同級生がいない、って悲しい事件は避けれるよ。
ま、そんなわけだが、君にとっては悪い提案じゃないと思う。
私を追い越したい君へ、先で待ってる。
ノヴァ・ミスト』
「ゼノン、お前はどうしたい?」
その答えは一つしかなかった。
「──行きます」
「……そうか。手続きはしておく」
「ありがとうございます」
父上はそれきり部屋を出ていった。
……面白い。
家で学ぶにも限界はある。早いとこ学園に行って、魔法育成のための潤沢な施設や、書物が欲しいと常々思っていたのだ。
「──もっと強く。誰にも負けたくない」
存外俺は負けず嫌いのようらしい。
それはそうだ。負けるより勝つ方がずっと良い。そんなことは自明だろう?
入学まで残り半年。
俺は今まで以上に全力で鍛え上げることに決めた。
ーーー
1章終了です。
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ノヴァたんの見た目を描写し忘れていたので、前話で追加しました。
赤髪赤目で片眼鏡掛けた超絶美幼女です。
片眼鏡って性癖厨装備で良いですよね。私は好きです。
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