第4話 魔法狂い

「魔法……魔法か!」


 憑依してから1日が明け、改めて夢じゃないことを自覚した俺は、若干のテンションのおかしさを自覚しつつ叫んだ。

 ここは現代日本じゃない。異世界だ。

 コンセプトとして平然と魔法が世の中に根付いている。夢にまでみていた魔法をこの手で行使することができるのだ。


「とは言え、これまで受けてた授業のことなんて何も憶えていないし、1から勉強か……」


 今は有り難いことに夏季休暇ということで、家庭教師による授業もしばらくはない。この間にある程度の研鑽を積んでおけばブランクは取り戻せるはずだ。

 これでも闇覚醒して主人公とタメを張る実力だ。才能がないということはあるまい。


「よしっ」


 気合いを入れ直した俺は、屋敷の書庫へと向かう。

 魔法の使い方やその理論について書かれた本があるはずだ。



「現代魔法基礎学……、魔力操作の基本……まあ、片っ端から読んでくか」


 俺はそれらの本を持って自室で広げる。

 憑依したため、文字も読めない可能性があったが、そこはご都合主義で何とか読むことができた。

 全然日本語じゃないのだが、ゼノンくんに備わった──所謂意味記憶があったのだろう。


 

 ──二時間後。


「なるほど。理解」


 まるで元から知っていたかのように──いや、実際知っていたのだろうペースで読み進めることができ、知識を定着させることができた。


「魔法は感覚ではなく理論。頭で動かせ、か」


 この世界の魔法は、詠唱をして適当に魔法を発動させるタイプのものではなく、魔力で魔法陣を描き、そこに魔力を注ぎ込むことで魔法が発動する。

 この時間違った魔法陣を描いてしまうと魔法は当然発動しないし、魔力暴走を引き起こして爆発オチもありえる。


「……くくっ、つくづくゼノンくんには感謝だな」


 ──カメラアイ、という能力を知っているだろうか。


 現代日本でも存在が明記されている特殊能力であり、カメラで保存したように一度見たモノの記憶を保持することができる能力だ。

 そしてゼノンくんは、その能力を産まれながらに持っており、様々な魔法陣を一目見て完璧に記憶できる。

 公式ガイドブックに書いてあったのだが、俺が憑依してなおその能力は健在のようで、読んだ本の内容はすでに記憶した。


 

「魔力操作……魔力……これか」


 早速実践、ということで、俺は目を閉じて魔力を知覚する。

 集中すると、体の内側……内臓とはまた違う別の感覚器官のような場所に、ドロッとしたエネルギーが内包しているのを感じた。

 恐らくこれが魔力。

  

 その魔力を指先から放出。

 空中に記憶した魔法陣を描く。


 とは言っても一から全てを描くわけではなく、強く頭の中でイメージすることで自動的に魔法陣が描かれていくのだ。だからこそ記憶が重要だ。

 その点俺はカメラアイがあるため問題ない。 


 描き終えた魔法陣に魔力を注ぎ、俺は呟くように言った。


光球ライト


 ──瞬間、魔法陣から光の球が現れ、辺りを光り輝かせた。


「これが魔法……ははっ、すげぇ。どんな原理だよ……意味わかんねぇよ……」

 

 ──あぁ、すげぇ。すげぇよ、魔法。

 こんな面白いもんが世の中にあるなんてさ。


 

 

「にしても、闇覚醒する俺が最初に使った魔法が光魔法とはね。なんの皮肉やら」

  

 光魔法といったら勇者の代名詞だからな。

 ムカつくあの勇者と三年後に会うって考えたらそれはそれで憂鬱だな。まあ、極力関わらないようにするし、何かあっても撃退できる力は身につける予定だが。



「他にも色々な魔法があるよな。もっと、もっと魔法を知りたい。こんな面白いもん放っておけるかよ!」


 憑依して一日。

 俺はすでに魔法という未知の力の虜になっていた。



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