題肆段

「あっちぃ〜」

 異常気象により虫の声すら聞こえない。これは生物が生存できる環境なのか???汗でベタベタになり重くなったYシャツをパタパタとはたく。全くもって気休めにもならないけど。

 ここ数ヶ月で一帯の区画整理が進んだみたいで、コンクリートの壁で熱が乱反射している。

 ちょっとは木とか植えてくれないかな。


「もし、そこの方。何か飲み物はないでしょうか?」


 見上げるとこの暑い中分厚い茶色のコートを着て髭を蓄えた、60代くらいのお爺さんが立っていた。姿勢が良くて俳優さんみたいだ。靴が土で汚れている。


「それがーこの駅自販機ないんですよ。次の駅で降りて買わないと」


「そうですか……」


 しょんぼりとしてホームに戻っていった。


 微かなアンモニア臭がした。老人が立っていた場所には水溜りができている。


「そうか───やっと暑さの峠は越したかな」



 遠くで蝉の求愛の声が聞こえた。

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