第28話 実験されるメイド(後編)
『レディース、アンド、ジェントルゥゥゥゥメェェェェェェェェン!』
わたくし、寺田民が目を覚ますとそんなちょっと耳障りな……いえ、耳に残るような声が聞こえてくる。
辺りは薄暗く、そして頭はまだくらくらしていた。
(まさか中下様が睡眠薬を使ってくるとは……)
と、わたくしは意識を手放す前の出来事を思い出す。
恐らく、中下様が差し出したコーヒーの中に睡眠薬が入っており、そのせいでわたくしは意識を失ってしまったのでしょう。
今までそう言った、睡眠薬を用いての事がなかったため、油断していました。
それに中下様はマッドサイエンティストとは言いましても、ちゃんと今日行う実験がなんなのか説明してくださっているので、それも無かったから実験される事はないでしょうと思っていたのに……。
(いや、説明はされていましたね)
中下様は【メイド武闘会】の事について説明なさっていた。
そしてわたくしを大会にエントリーしていたとも言っていた。
つまり、わたくしに大会で勝ち進むほどの力を施したという事なのでしょう。
わたくしは身体を起こしてどうなったかを確かめようとしましたが立てませんでした。
まだ睡眠薬が効いているせいなのか、身体が上手く動きません。
仕方なく座ったまま、自分の身体に何が起こったかを確認します。
一番確認したい髪と瞳は鏡がないから良く分かりませんが、髪は何も変わっていませんでした。
多少、ちょっとだけ長くなったと感じるくらいでしょう。
手や足は触手や4本足とかには変わっていなくて、いつものまんま。
着ている服も、中下様が褒めてくださったメイド服のままだった。
(どこも変わっていませんよね?)
逆にどこが変わっているかと言うくらい、変わっていない。
もしかしたら肌の色が変わっていて、髪の色が変わると異常に強くなる某龍玉の戦闘宇宙人のように変色しているのかもしれないけれども、辺りが薄暗くて分からない。
『さぁ、皆さまぁぁぁぁ! 大変、お待たせいたしましたぁぁぁぁ! 只今より【メイド武闘会】の第1試合を行いたいと思いますぅぅぅぅ!
まず、赤コーナァァァァ! カーテンを開けて現れしは中国四千年の歴史を誇る中華メイド、
カーテンの向こうでは、司会者と思われる女の熱い実況が聞こえてくる。
竜牢千。
【メイド武闘会】でもかなりの有名人であり、彼女の攻撃は神速をも越えると言われているほどだ。
その技術がメイドとして、どう使われるかはともかく、危険な存在である事は確かである。是非とも戦いたくはない相手の1人だ。
『そして、青コーナァァァァ! あの狂気の人畜最凶、狂いし悪魔との呼び声も高い坂之上中下に忠誠を誓うメイド、寺田民! 初参加ながら、数々の人体実験を施されている彼女は、今大会のダークホースとなりうるのかぁぁぁぁ!』
「……!」
その解説者の言葉にわたくしの耳が反応していた。
「狂気の人畜最凶? 狂いし悪魔、ですって?」
確かに中下様は人間として狂っているかもしれませんが、それを見ず知らずのあなたが、彼の事を知らないあなたなんかが語って欲しくはないです。
わたくしのご主人様である中下様は、毎年のお盆にわたくしのお墓参りに付き合ってくれるくらい人の事を考えていますし、わたくしの誕生日には美味しいケーキをくださる優しさもあります。
実験だって、人々のためにと考えてやってくださっているだけであり、その凄さは分かりづらく、わたくしはそれでマッドサイエンティストと考えているだけです。
それを人畜最凶、狂いし悪魔ですって?
「わたくしの尊敬するご主人様を、そんな風に言ったのには腹が立ちますね」
いつの間にか、中華メイドの恐怖も、睡眠薬のくらくらもなくなっていた。
今、わたくしの胸にあるのはご主人様のために働こうという想いだけ。
ゆっくりと、カーテンを開けて、わたくしはようやくご主人様がわたくしにどのような実験をしたか分かった。
唖然となる観衆。焦ったように実況する司会者。そして……中華服を着た端正な顔立ちの龍牢千。
その全てが
----巨大であれば、例え身体能力が普通だとしても勝てるから。
さすが、中下様。的確な指示です。
「さぁ、やりましょうか」
わたくしはそう言って、対戦相手との戦闘を始めた。
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