第26話 毒舌メイド
俺、
俺の元で働いているメイドは、総じて毒舌である。
朝、俺はメイドの桜さんによって、起こされる。
「おはようございます、結城様。今日もごきげんようとでも言って差し上げましょうか? こんな遅く起きて大丈夫ですか?」
桜さんは口調こそ丁寧だけれども、ところどころから感じられるこちらを下に見た女王様っぽい性格がとっても堪らない!
艶やかで長い髪と睨み付けると怖ささえ感じる瞳で見つめられると、朝からゾクゾクしてしまう。
メイドと言う立場なのに、こっちが起きたのを確認するとすぐさま出て行ってしまう桜さん。
うーん! いつも通りで良いよね! やっぱり朝はこうでないと!
手を洗って朝食を食べようとすると、今度はメイドの美香さんが俺を罵ってくれる。
「おはよー、バーカー! あんたに食べさせる物があるだけでもありがたいと思いなさいよね?」
美香はツンデレのような口調で言っているが、俺には分かる。
あれはツンデレじゃない、ツンドラだ。
こちらを同じ人とも思っていないような目つきでこちらを見てくる。
あぁ、あの瞳で見つめられると身体の芯が温まる。
食事を食べる前からエネルギー満タン!
いつだって生きていけそうだ!
玄関に出ると、掃除を始めようとしていたメイドの
「うわー、誰かにかかってしまったのだー。ごめんなさいなのだー。
……って、なんだ。ただのご主人様なのか。謝って損したのだ。じゃあねーなのだ」
杏ちゃんは水をかけた俺の服を拭きもせず、「また水を組むのは大変なのだ」と言いつつ、そのままバケツを持って行ってしまう。
あぁ、杏ちゃんはまだ6歳!
けれども俺はもう28歳!
彼女の約5倍は生きているというのにこの仕打ち!
舌たらずの口調の中にも、しっかりと俺の事を罵倒するその刺激!
まさに生粋のS!
持っていたハンカチで身体を拭いた後、会社へと向かう途中、メイドの
「……バーカ」
と、そう言ってとぼとぼと元来た道を帰って行った。
おいおい、急いでくるから何かと思えばただただ罵倒するためだけに走ってきたとか。
そのために急ぐ精神が素晴らしい!
人を虐める事しか考えていないとか、まさに外道!
見た目は愛らしい、守ってあげたいような感じなのにどうしてそんな事が出来るのだろうか!
会社では桜さん、美香さん、杏ちゃん、真矢ちゃんの4人のメイドがかけてくれた言葉を胸に頑張る。
桜さんは俺の幼馴染のメイド。
気心を知れた間柄にも関わらず、丁寧な口調からはこちらを拒絶する事しか伝わって来ないなんて、俺達はどこまで心が通じていないのだろうか!
あんなに綺麗に成長しているのにも関わらず、心はいつだって毒舌のままだ!
美香さんは19歳の大学1回生。
勉強をいっぱい教えてあげたり、援助とかをしてあげたりしているのにも関わらず、一向にデレが見えないとはどう言った事だろうか?
ありあまる嬉しさよりも、俺への気持ち悪さが打ち勝っているという事なのだろうか?
これは手厳しいぞ! 大きなリボンが可愛いとか、髪を切ったから印象が変わったって言っても変わらないし、これは相当だなぁ!
杏ちゃんは6歳!
まだまだ幼いが、Sの素質は折り紙つきだ!
幼く、愛らしい体躯から放たれる、悪気のない言葉はまさしく天然培養されたサドスティックの象徴!
彼女は生まれるべくして女王様気質なのだ!
おいおい、真矢ちゃんを忘れてはいけない。
真矢ちゃんは17歳の高校2年生で、言葉数も少ない、人見知りが強い女の子ではあるが、その隠し持つスペックは他の4人に並び立っている。
地味だけど輝く素材、そして透き通るような声。
その透き通るような声から放たれる言葉は、頭に直接届き、その言葉は何度も言われたかのようにずっと残り続ける。
あぁ、なんと素晴らしいメイド達だろう。
俺は天に感謝しつつ、会社業務を進めるのであった。
「ねぇ、桜さん! どうしてもあいつを罵らないといけないの! 私、あいつにはいっぱい借りがあるから、もう罵るの辛いんだけど!」
「杏もー。ご主人様は良い奴なのだー」
「……同意」
「ダメよ、あなた達。今日は『毒舌の日』。全てのメイドはご主人様に対して酷い事を言わないといけない日なのですよ。私も結城様に言うのはつらくて、つらくて……」
「そ、そうですよね。桜さん、終わった後、泣いてましたもんね……。マジ泣きでしたものね」
「杏、もうやめたーい。早くこんな日、終わって欲しーい」
「……うん」
「ご主人様も、メイドも、この日は毒舌を楽しむ日。皆様、つらくても乗り切りましょう」
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