第24話 分身メイド
私、
梓川家には非常にお世話になっており、幼い頃よりお仕えさせていただいております。
梓川家には
そして月様の言葉は何が何でも実行してきました。
あの力が目覚めたのも、私と月様がまだ5歳だった頃。
確かそう言った、月様がご命令なされた時の事でした。
「佐助! あの木のリンゴ、取れるかな?」
「お任せください、月様」
と、月様が指し示した木を見つめる私。
私の父だったら軽く空中2段ジャンプで届くでしょうが、幼い私はそうした事が出来なかったので、困っていました。
「もう1人居れば出来ますのに……」
「そうですわよね……」
と、振り返ってみると月様ががたがたと怯えながら私を指差しています。
「どうかなされましたか、月様?」
「お加減でも悪うございますか、月様?」
そう尋ねると月様は怯えながら、
「ど、どうして佐助が2人居るんだ……」
と言いました。
慌てて隣に居た女の子を見ると、これまた驚き。
さらさらながら羽根っ返りの強い髪、意志が感じ取れにくい冷たい瞳。
薄水色のメイド服を着た、鏡で見た事のある顔。
そこには、"私"が居ました。
「あら、驚きました」
「そうですね、びっくりです」
いつの間に分身などと言う技を身に着けたのかは分かりませんが、2人になれたのは嬉しい事です。
私達は1人が跳び、もう1人がそれのサポートをすると言う方法で、1人では届かない場所まで跳んで、見事リンゴを取る事に成功しました。
月様も喜んでくれたので、私達はとっても嬉しかったです。
それ以降、私はこの分身の力を高めました。
月様のためを思えば、苦労もなんのそのでした。
最初は2人と言う少ない数でしたが、5人、10人、50人とどんどん分身出来る人数が増えていきました。
月様は驚いたままでしたが、父は「佐助は分身を身に着けたか……」としみじみした顔で言いました。
どうやら父もご当主様のために私と同じように、普通の人には出来ない術を持っているそうです。
やっぱり親子ですね。
「いや、可笑しいだろう! どう考えても!?」
「そうでしょうか?」
現在、高校2年生で立派な男性へと成長なされました月様は、100人にまで分身出来るようになった私を見て驚きの声をあげる。
「いや、普通の女子高生は分身とか出来ないから! 絶対!」
「月様は面白い冗談をなさいますね。私はただの女子高生ではなく、月様のためのメイドですので」
「そう言う意味じゃないから! て言うか、分身出来る事が可笑しいから!」
可笑しな事を言いますねと、他の99人の分身に脳内連絡をすると全員が了承の言葉を返してきた。
10人を超えた辺りから、喋りすぎるとうるさくなると気付きましたので、身に着けた脳内連絡。
この力を使えば、地球の裏側までならば、0.0001秒以内に連絡を交し合う事が出来ます。
「もう少ししたらサウジアラビアで、石油が見つかるとの事です。もう少し、お待ちを」
「いや、良いから! なんでうちの事業を大きくしようとしてくれんの!? その力があれば、うちなんてすぐに倒せるじゃん!? メイドしなくて良いじゃん!」
「月様……」
そんな悲しい事を言わないで欲しいです。
私は月様のために生きるメイド。
例え17歳と言う年頃の女性になろうが、100人に分裂出来るようになろうが、その想いは昔から永遠に
私は月様のためにある者はサウジアラビアで石油掘り、ある者はアメリカで大きな取引を成功させ、またある者はライバル会社の整理を行っているだけなのです。
全ては月様をさらに、ビッグな殿方にするため。
「月様は嬉しくないんですか? 家が大きくなる事が。自身の地位が大きくなる事が」
「それは……嬉しいけど、そんな無理して働かなくても良いじゃん! 佐助は僕のメイドである前に、僕の幼馴染の女の子でもあるんだよ!」
「月様……」
なんて嬉しい事を言ってくれるのでしょう。
私達なんかの身を案じてくらっしゃっていたとは……。
あまりの嬉しさに100人全員が感動で目から涙があふれ出しまくっています。
「分かりました、月様。自分の身を大事にし、ご主人様のため、この分身メイドの木下佐助、生涯をあなた様のために誓います」
「いや、そんな事は良いから」
「私も誓います」
「えっ……?」と、2人目の私の言葉を聞いてキョトンとした顔をする月様。
「佐助、これって……?」
「あまりの嬉しさに私達も直接誓いに来ました」
「他の皆様も続々と舞い戻ってくるでしょう」
とそう言う3人目と、4人目の私。
どうやら他の私も嬉しくて、月様に直接生涯の忠誠を誓いに来たのでしょう。
私、分身は作れますが、元の1人に戻るにはその場に戻らないとならないので。
「流石、私です。心はみな、一緒。さぁ、皆様。月様に生涯の忠誠を誓い……」
「あっ、逃げました!」
「何故、逃げるのですか、月様!」
そう言って私は、私達は、何故か逃げる月様を追いかけるのでした。
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