第23話 メイド三人とラーメン店

『らっしゃいませ!』


「おぉ、店主! 久しぶりだな!」


《元気してたっていう感じー? つーか、本当に久しぶりぃ!》


【……久方ぶりの来訪、至極歓迎いたす】


『うわっ、何故か刀を持った侍メイドに、ガングロメイクのギャルメイド! そして身長5mのデカメイドの色物3人娘かよ!』


「店主よ。久しぶりに会ったと言うのに、刀を持っている事が可笑しいと突っ込むのは何事だ。刀は人の魂であり、そして心だ。心なくして主に仕えるなどありえない」


《つーか、ギャルメイドってあたしぃ? マジ受けるんですけどー。私、これでも魔法で天地とか普通に揺るがしちゃう、超ハイパーメイドなのに、ちょっとメイクしているだけの印象ってやばくなーい?》


【……店主は我の事が嫌いなのか? 確かに我は普通の人間よりも大きいが、これはあくまでも個体差であり、10mはあろうかと言うメイド長に比べれば私など子供以下に過ぎないと言うのに】


『いや、この3人マジでなんなの! 毎回なんか空間に穴っぽい物開けてやってくるし! 俺、ビックリだよ!』


「店主は妙な事を言うな。空間に穴を作るように斬る斬魁空くうきるなど小学校で習う必須技術ではないか? むしろ空間を超えてまで美味しそうな匂いを漂わせる店主のほうが誠に面妖である」


《小学生とかマジワロタ! そっちじゃあ小学生で空間渡り出来んの!? こっちだと空間に穴開けるだけで100年に1人とか言われてるのにwww やべぇ、笑いすぎてお腹痛いww》


【……我が働いている屋敷では空間が繋がっていたり、繋がっていなかったりするのが常識なので、空間を越えてくることなどさも当然の出来事なのだが】


『こいつら、本当になんなの!? メイド服着ているけど、とんでもやばい人物集団じゃねぇか!?』


「店主よ。それよりも私は腹が減っている。味噌らあめんとやらを所望したいのだが」


《あっ! 私もヨロー! 塩ネギ増し増しで、ついでにチャーシュー多めでお願いすっつーの!》


【……では我は醤油ラーメン大盛りで頼む。大盛りでないと私の腹の虫が鳴りやまぬからな】


『分かった。分かった。今作るからちょっと待ってくれ』


「あぁ、店主。味噌らあめんをしようかと思っていたが、この期間限定の醤油ばたーらあめんとやらの方が美味しそうだ。こちらを頼みたい。それから主のためにお持ち帰りで餃子を2人前頼む」


《あっww 忘れてたww ご主人様からラーメンを食べに行くって言うなら頼まれてたのがあったのこってり忘れてたww 主のためにチャーハンちょうだい! ご主人様、店主のチャーハン大好きだから、4つね! 4つ頂戴! ついでにさっきのラーメン、こってりめでお願いねー!》


【……むっ。こんな所に『特盛OK』の看板があるな。だが醤油ラーメンの特盛を食べると成長具合が悪いな。店主、我は注文を変更する。とんこつラーメンの特盛に変更していただきたい】


『はいはい、変更ねー』


「でかめいど、とやら。お主も自分が仕える主に対し、なんらかの土産が必要となってくるのではないか?」


《そっだねー! やっぱりないと困るっしょ! あんたみたいなデカいの雇っている人ならデカいっしょ!? 懐とか、懐とか!》


【……確かに我のマスターは懐は低いが、さほど背は大きくはない。1m50cmくらいだな。背の大きさが身分の大きさに比例しないからな。実際、一番大きいメイド長も、本来は一番地位が低かったしな】


「そうなのか。同じ世界だと思いきや、違う価値観があるのだな。私の世界では強くて、そして志の大きい者こそ良いとされておる。主はそんな世界で神のように民達から慕われており、仕えている私からすれば心地良い」


《うっわww そっちの世界じゃそうなのww こっちじゃ、仕えたい人に仕えれば良いという、お気楽思考がJS! あっ、今のJSは女子小学生じゃなくて、常識のJSだからねっ! まっ、私クラスの大、大、大魔法使いをメイドとして雇っているあいつは誇り高いでしょうね!

 ……まぁ、あいつもカッコいいし。不治の病に侵される危険がっても助けてくれるくらい、優しいところもあるけど》


【……我の世界では前世こそ全てなのだ】


「ぜんせ、とは生まれる前の世界という意味か?」


《それ以外の意味、ないっしょ!? つーか、前世が全てってどーいうこと? わけわかめ!》


【……前世でメイドならば、今世もメイド。前世が悪人ならば、今世も悪人なのだ】


「それはまた……厄介な世界だなー……」


《輪廻転生とかってやつ? それってとっても変じゃね? 前世とか普通、分からなくね?》


【……我やメイド長、あの家で働く者は全員、マスターのメイドが前世だった。だから今世もマスターのメイドであり続けなければならない。例え自分よりも弱そうな、自分の5分の1くらいしか背がない者でもマスターとして仕えなければならないのだ】


「《…………」》


【……前世を改ざんする大罪なども増えており、我が世界は色々と大変だ。勿論、産まれてすぐ、『この方が主である』と言われても、我も、そして他の侍従達も理解出来なかった。最初の頃は命令無視とかが当たり前に起こっていた。

 だが、マスターは何も責めなかった。そして我らが自分に本当に仕えたくなるまで仕えないと良いと言ってくれた。前世を否定する発言は禁忌とされているのに、我らがメイドでなくても良いと言ってくれた。

 ……後は時が解決してくれた。今では前世からマスターに仕えられた事を誇りに思う】


「良い話である。でかめいどの主とやらも懐が広いのだな。よし、私の餃子を1つやろう。主に食わせてやると良い」


《わ、わたしは泣いてないんだからね! 別に良い話とか思ってないから! 禁忌魔術訓練でも泣かなかった私がこんなところで泣くとかありえないんだから! ……けどチャーハン頼みすぎたから1つあげる。マスターだかなんだか知らないけど、食べさせたら良いじゃん!》


【……2人ともありがとう。マスターも喜ぶだろう】


『おら、3人とも注文、出来たからさっさと食べやがれ』


「《【いっただきまーす!」》】


『……ったく、美味しそうに食べやがるな、この3メイド。そこも同じだな。うん』

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