第6話 正義のメイド
日本東京某市。
人々の平和を脅かす悪の組織『ジェノサイド』が人々を恐怖のどん底に陥れようとしていた。
「ハーハッハハハ! 行け、蟹怪人キャンサー! 蜘蛛怪人アラクネ! 人々に我々の恐ろしさと怖さを叩きつけるのだー!」
大きな鋏と硬い甲羅が持ち味の蟹怪人キャンサーと、女性の上半身と蜘蛛の下半身が付いた蜘蛛怪人アラクネは、作戦指揮を取るアクジン総統の指示の元、悪の組織らしい悪い事を行おうとしていた。
「まずはキャンサー! あのビルを泡爆弾で爆発させるのだ!」
「了解カニ!」
と、キャンサーが赤い鋏を大きなビルへと向けて、そのビルに向けて鋏の真ん中にある噴出口からあらゆる物を破壊するシャボン玉爆弾を放った。
シャボン玉爆弾はプカプカ浮かびながら、しかし確実に速度を上げてシャボン玉とは思えない速度でビルへと向かって行った。
「ハハハ! 人々の恐怖する姿が目に浮かぶのだ!」
「全くカニ!」
「そうでクモ!」
ジェノサイドの怪人と総統が笑い、後ろに構えていた黒い服を着た一般兵達もつられて笑い出す。もう間もなくビルへと当ろうかと思われたその瞬間、
「……全く困ったものです」
丁寧に、そして誰もが耳を止めるような美しい声と共に、1人のメイドが地面を跳んだ。
そう、メイドである。
色鮮やかな3~5人組の集団でもなく、3分間しか戦えない光の巨人でもなく、仮面とは何だったのかと言うライダーでもない。
ただの、白いエプロンドレスを着た、普通のメイドである。
そんなメイドが一気に跳び上がり、持っていたモップを振るい、キャンサーが放ったシャボン玉爆弾をビルに当たる前に処理し、無傷で降り立った姿は驚愕だった。
「……! キャンサーの泡を破壊して爆発を食らって無傷とは……! お前は何者なのだ!」
そう聞かれたメイドは、さも当たり前の事のように
「メイドです」
と答えた。
「はぁ!? 何を言っているカニ! ただのメイドが俺の泡爆弾を止められるはずがないカニ!」
「ただのメイドではありません。私はこのビル、及び地域を守る正義の味方ならぬ正義のメイドです」
「違いが分からんカニ! ともかく一旦死ねカニ!」
そう言って、キャンサーは大きな鋏を振り回しながらそのまま向かって行く。
それに対してメイドは、面倒そうな顔で「仕方ありません」と言ってモップを地面に置くと、懐から蟹を斬る際に用いられるキッチン鋏を振り回す。
「えい」
何ともまぁ気の無い返事をするメイドさんだが、その力は凄まじく、キャンサーの核爆弾さえ跳ね返すとされるキャンサーの背中の甲羅がまるでペラペラの紙のように無残に切れていく。
それを見て驚愕する、アクジン総統とアラクネ、そして一般兵の人達。
「え、ええい! 一般兵! キャンサーの仇を取るのだ!」
『おおー!』
良い意味で言えば力強く、悪い意味で言えばもうやけになって、一般兵達はその命を捨てるようにメイドへと向かって行った。
「ただ突っ込むだけしか能がないのですね……」
彼女がそう言うと、今度は置いてあったモップを手に取り、そのモップをさらさらと、埃を取るかのように一般兵達を掃いていく。
……すると、何という事でしょう。
あんなに黒いスーツを着た悪の一般兵がみるみるうちにスーツをシャッキと着た社会人になっていくではありませんか。
「さぁ! 明日も仕事、頑張ろう!」
「希望が湧いて来たぞ!」
「この世は明るい! 日本の夜明けはもうすぐだ!」
それを見て、さらに唖然となるアクジン総統とアラクネ。
今までどんな命令にも従って来た一般兵が、ただの一メイドにモップで撫でられただけで真人間の社会人になるのだ。
目が可笑しくなったと考えても無理はない。
「くっ! アラクネ! ここは一旦退却だ!」
「りょ、了解クモ!」
不利と見たのか逃げるアクジン総統とアラクネ。
こうして世界は救われた。
ありがとう、メイドさん!
あなたのおかげで世界と、そして主人が務めるビルは無事だぞ!
頑張れ、メイドさん!
負けるな、『ジェノサイド』!
地球の未来は明るいぞ!
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