第40話 昼営業 前編
涼が制服に着替え終わるとほぼ同時にノック音がする。
「はい」
「入るよ」
部屋に入ってきたのは、ドーリッシュだった。
「おはよう、涼。休めたかい?」
「はい。あ、おはようございます、ドーリッシュさん」
「そりゃよかった。手のけがは?」
「力を入れると痛みますけど、大丈夫そうです。店長にも、傷が開くようなら休むよう言われました」
「そっか、ならひとまずは安心かな」
ドーリッシュは優しい声で言う。
涼は先に更衣室を出た。
ドーリッシュはいても良いといったが、何となく気恥ずかしくなったからである。
「涼は恥ずかしがり屋だな」
ドーリッシュは笑いながら服を着替えた。
制服を着替えた後、ドーリッシュも更衣室を出た。
「店長、頼みがあるんだけどさ」
「もしかしたら、また夜釣りの件?」
涼は不思議そうに見ている。
「そう、今度は船と涼を貸してくれよ」
「船は良いけど、涼くんの了解を得てね」
「俺ですか? 俺、釣り好きなんですよ! 連れて行ってください」
「じゃあ、話はまとまったね。いつ行くの?」
「うーん、どうするかな」
「来週の月曜日はやめてよね。だって、涼の友達がうちに予約しているんだから」
キルシーが鋭くツッコミを入れる。
まだ彼女は店に到着したばかりで着替えはしていない。
しかし、事務作業の仕事も兼任しているから、そちらをやりに来たようだ。
「もちろん、その日は外す」
「それと、明後日もね。明後日は予約が多いのよ」
「分かったよ」
ドーリッシュはうーん、と頭を抱える。
「なるべく近いうちにしたいんだよ」
ドーリッシュは悩みながら言う。
「そういえば、今日の夜は……」
涼はシフトをちらっと見る。
「今夜は予約なしだから、一時間の短縮営業で私とアンネと店長で回すって話になったでしょ?」
「なら、今夜行くか! 明日の昼は確かトールと梨那のシフトだったろ?」
「そうだね、そうしておいでよ」
店長は快く許可を出した。
「さてと、昼は俺たちが頑張ろうか」
「はい、ドーリッシュ」
「笑顔で接客だぜ、涼。ちょっと表情が硬いままだぜ」
ドーリッシュはからかうように言う。
「は、はい!」
「作った笑顔じゃなくてさ、ナチュラルな笑顔っていうのかね? それが最善だよね」
ドーリッシュはニッと笑いながら言う。
「簡単じゃないことは僕がわかっているからさ」
「確かに、ナチュラルな笑顔で接客できるのが一番なのは、今までのバイトで学んできました。飲食も経験あるとはいえ、前は本屋でジャンルは違うけど……」
「涼、言葉遣いとか丁寧だと思ったら接客経験あったのか」
「ええ、隠すつもりはなかったんですけどね」
涼は笑って言う。
「そう、その笑顔だよ!」
ドーリッシュは軽く涼の背をたたいた。
「わっ……!」
「さあ、二人とも! そろそろ開店だよ」
ジーンが声をかける。
「ああ、分かった」
「はい!」
二人はジーンとドアの前に立ってお客さんの出迎え準備をする。
「さて、今日はどんなお客さんが来るかな?」
「少し楽しみですね!」
ジーンは笑っている。
「どんなお客さんでも、笑顔で帰ってもらいたいね」
ジーンはそうしみじみと言う。
「さあ、開店だ! 涼くん、看板を反対に向けて」
「はい!」
Sternen zelt closeの看板を、openにした。
「Sternen zelt、今日は席も空いてるみたい!」
「ドーリッシュもいる! 行こうよ」
最初の来客は二人組の女性だ。
「いらっしゃいませ!」
涼とドーリッシュはそろって笑顔で迎え入れた。
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