第41話 昼営業 中編

二人の女性客を店内に案内する。

「ご来店ありがとうございます。メニューです」

ドーリッシュは笑顔でメニューを渡す。

「おススメは何ですか?」

「当店のおすすめはこちらの特製ランチです」

ドーリッシュが手のひらで示した特製ランチは、野菜、魚、卵で彩りの良いセットだ。

しかし、ドーリッシュはいたずらっぽく笑う。

「個人的にはこちらのお造りセットもおすすめです」

魚のお造りの盛り合わせと、玉子焼き、そして汁物とご飯のセットの写真をさり気なく手のひらで示している。

「じゃあ、お造りセットお願いします」

「あ、私も!」

二人は迷うことなくお造りセットを注文した。


「これがドーリッシュくんの接客なんだ。お昼限定だけどね」

ジーンは笑っている。

「俺もマネしてみようかな」

「うんうん、接客は良いところを盗んでいくことも大事なことだよ」

ジーンは頷きながら言う。

涼は食器を出し、ジーンをサポートする。


「うわっと!」

ジーンはうっかりと器を取り落とす。

「……よっと。大丈夫かい、店長」

ドーリッシュが間一髪、器はキャッチした。

……そう、器だけは。


「僕は良いんだけど、料理が……」

「お客様の前だぜ、店長。ってか、店長なんか顔赤くないか?」

「あ……、言われてみたら確かに。とりあえず、水飲んで」

「あ、ありがとう……」

ジーンは涼が用意してくれたコップの水を飲む。

「ありがとう、涼くん」

「とりあえず、料理を先に! お客様が待ってる」

涼はビニール手袋をして包丁を握る。

そして、スッ、スッと刺身の柵を斜めに切っていく。

「涼くん……」

「良いねぇ! 上手に切れているよ」

「店長がやっているのを見て覚えたんです。柵くらいなら切れますよ」

「助かるよ」

涼は器の下にドラキュラマットと呼ばれる薄いシート、さらにその上に大根の細千切り、大葉、ニンジンの細千切り、そして刺身を盛り付ける。

「涼、最後の仕上げを忘れるな」

ドーリッシュはさりげなくパセリを飾る。

「これで刺身は完成! 後は……」

「お吸い物とご飯並盛、サラダだな。お吸い物とご飯は僕がやるよ」

ドーリッシュはテキパキと二人分を盛り付ける。


「後はサラダですね」

「冷蔵庫に入っているよ」

ジーンはそう言って二つ、小鉢のサラダと小鉢の一品を出してくる。

「これはサービスだよ。今日はオクラのワサビ和え」

「了解です。ドーリッシュさん、こっちも準備終わりました」

「じゃあ、サーブしてくるよ」

「お願いします」


ドーリッシュはお盆を二つ持って、二人の女性客に料理を提供する。

「お待たせいたしました、お造り定食です。本日の魚は、カツオとシマアジ、そしてウニを添えて。こちらの小鉢はサービスとなっております」

ドーリッシュは丁寧だが短く説明する。

「ごゆっくりどうぞ、失礼します」

ドーリッシュはすぐに厨房に戻ってくる。


涼はコップに水を入れてジーンに渡し、団扇を扇ぐ。

「今日は調子悪いんだな、店長」

「暑いからかな……。ふぅ……、参ったよ……」

「店長、もしかして熱中症?」

「かもね……」

「水分と塩分摂って、ちゃんと休んどいたほうが回復は早いんだけどな」

「でも、お店を閉めるのは嫌だなぁ」

「少しでも回復するように、休憩時間はしっかり体を休めといて」

「え? キルシーちゃん、まだいたんだ……」

「店長と私のシフトを交代するわ。私が厨房をまわす。涼はサポート、ドーリッシュは引き続きホールメインでお願い」

「さすがキルシー、頼りになるね」

ドーリッシュは笑顔で言う。


「店長は夜の営業もお休みでいいわ。私が回す」

「……ありがとう、キルシーちゃん」

ジーンは涙ぐんだ。

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