第39話 レタス警察

涼は冷蔵庫から野菜を取り出す。

実はこの部屋に移る際、少しだけどおすそ分け、と言ってもらったものである。

「店長の菜園で育った野菜って言ってたな」

パンがあるから、サンドイッチでも作って食べようと思ったのである。

このパンは、キルシーからもらったものだ。

彼女はパンを作るのが好きらしく、これまたおすそ分けである。


ちょこちょことフローリングを掻くような音がする。

「ん?」

「プーイ! プーイ!」

「来たな、レタス警察め……」

そう、ぴぃの大好きな野菜はレタスである。

その為、料理の為にレタスを使おうとしたら後を付け、欲しいと大声で鳴きながらねだってくる。

その様子を見て、涼はレタスをねだりに来るぴぃを『レタス警察』と呼んでいるのである。


しゃくしゃくと小気味のいい音を立てて、レタスをむさぼっている。

「ほら、ケージに戻ってご飯食べな、ぴぃ」

「ププッ!」

「よーし、ならこうだ」

涼はレタスを一枚持って、ぴぃの目の前に差し出す。

そのままゆっくりと後退していくと、ぴぃはレタス欲しさに着いてくる。

ケージの皿にレタスを置くと、ぴぃは喜んでケージに入ってレタスに直進する。

その間にケージを閉め、涼は朝食づくりを再開した。


「こんな感じかな」

マヨネーズにはほんの少しだけ合わせみそを溶き混ぜており、レタスと斜め切りにしたきゅうり、ハムを挟んだ簡単なサンドイッチ。

トマトがあればもっと見栄えは良かっただろう。

だが、トマトは店長の菜園でも不作だったようだし、マーケットの場所はまだ教わっていない。

今度、ドーリッシュが教えてくれると約束してくれているので、一人で道を聞いて行くのも気が引けた。


持参していたインスタントコーヒーを淹れ、サンドイッチで軽い朝食にする。

「いただきます」

「プイ!」

ぴぃが返事をする。

ペレットもチモシーもあるのを見て、涼は苦笑いしながらサンドイッチを一つ口にする。

シャキシャキとした食感がして、野菜も瑞々しい。

「朝から贅沢した気分だ」

「プーイ! プーイ!」

「モルサイレンだ」

涼は笑って何もつけてないレタスを少し分ける。

「ぷぷぷッ」

ぴぃは喜んでレタスを頬張った。

「ふぅ、美味しかった。ご馳走様でした」

涼は満足そうに皿を下げる。


皿をサッと洗いつつ、じわじわとケガが痛む。

昨日、店の皿で手を切ったせいだ。

「店長、今日は俺に何を任せてくれるんだろう……? ケガしてて、まともに仕事できるとは思えないのに」

「ぷい」

ぴぃは大き目な声で鳴く。

「……びっくりした! どうした、ぴぃ。レタスならもうないぞ」

ぴぃは出して、と言わんばかりにぐいぐいとゲージを押す。

「部屋んぽか……、分かったよ」

涼はぴぃを部屋んぽさせる。

「もう少ししたら部屋んぽ終わりだぞ。兄ちゃんは出かけないといけないから」

好き勝手に部屋を探索するぴぃを苦笑いで見守る。


「ぴぃ」

「プルルルル……!」

「嫌がっても仕方ないだろう?」

嫌がるぴぃをケージに入れ、涼は出勤の支度をする。

「ごめんな。けど、俺も働かないといけないから」

「ぷい」

「すぐ帰るから。な、ごめんな。行ってくるよ」

涼はトートバッグを片手に出勤する。


「おはようございます」

「ああ、おはよう涼くん。手のケガは?」

「大丈夫です」

涼は少し痛むことを隠して言う。

「そう、なら良いけど……。少しでも血が出てきたら休むんだよ」

「ありがとうございます、店長」

涼は制服に着替え始めた。

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