第38話 二人の秘密
ドーリッシュは慌てて涼の手を取って引く。
「大丈夫か」
ドーリッシュはしりもちをつきつつ、声をかける。
「はい……。びっくりした」
「俺もびっくりしたよ」
涼はきょとん、とした顔でドーリッシュを見る。
「俺……?」
ドーリッシュはハッとした顔をする。
「あ……、えっと……」
ドーリッシュは慌てたような顔をしている。
涼はようやく気付いた。
「ハハ、ドーリッシュさんも『俺』って言う一人称を使われるんですね」
「……つい咄嗟にね。内緒にしといて」
ドーリッシュは照れた顔を伏せて言う。
「良いですよ。でも、俺って言うドーリッシュさんの方が印象に合いますよね」
「そうかい……?」
「少なくとも、俺はそう思いますよ」
涼は笑顔で言う。
「素直だねぇ、キミは」
ドーリッシュは笑って言う。
涼はドーリッシュに釣られて一緒に笑い始める。
「えっと、ドーリッシュさん……」
「なんだい、涼」
「ここにいる間だけでいいので、兄貴って呼んでもいいですか?」
「兄貴って……」
ドーリッシュは戸惑う。
「俺を叱咤激励してくれて、それに助けてくれる。兄さんみたいに思って……」
「ま、まあ、いいけど……」
ドーリッシュは苦笑いして承諾する。
涼は嬉しそうに笑顔を見せる。
「兄貴……か」
ドーリッシュは星空を見上げながら少しこそばゆい感覚でいた。
「おっと、こんなことしている場合じゃない! 早く陸に戻ろう」
荒れ始めた海のせいで、船は揺れる。
ドーリッシュは大急ぎで船を操縦して陸に進ませる。
「さてと、陸についたよ」
「ありがとうございます、兄貴!」
「それじゃ、早く休むようにね。僕も早めに寝るよ」
ドーリッシュはあくびをしながら言う。
「はーい、お休みなさい」
涼は部屋の前で、ドーリッシュの背を見送った。
ドーリッシュは部屋に入る。
「兄貴……か。妹がそう呼んでいたな。離婚で離ればなれになっちゃったけど、元気にしているかな……」
シャワールームでシャワーを浴び、濡れた体を拭いた後で寝巻に着替えたドーリッシュは部屋の窓を開けて喫煙する。
「プイ! プイ!」
「ただいま、ぴぃ」
涼はぴぃを抱っこする。
「うーん、爪が伸びてきたなぁ……。明日、爪切ろうな」
ぴぃはびくりと身を硬直させる。
というのも、ぴぃは爪切りが大の苦手である。
「おやつもいっぱい用意するから、少しだけ頑張ろうな?」
ぴぃは涼の腕の中で毛づくろいする。
「本当、ぴぃは可愛いなぁ」
涼は毛づくろいをするぴぃを見守り、毛づくろいを終えたタイミングでケージに戻す。
「さてと、俺もシャワーを浴びてこよう」
シャワーを浴び、寝巻に着替えてベッドに横たわる。
「お休み、ぴぃ」
涼はすぐに眠ってしまっていた。
朝
「プーイ! プーイ!」
ぴぃの鳴き声で、涼は慌てて飛び起きる。
「ぴぃ、どうした?」
ケージを見ると、牧草は残り僅か。
ペレットと呼ばれる、固形の餌も残り少しである。
「ごめん、お腹空いたんだな。さあ、朝ご飯やるよ」
涼は少し多めにペレットと牧草を足した。
というのも、ぴぃたちモルモットという生き物は、絶食には弱い為、空腹になると腸内細菌が減少し、体調を崩してしまうことがあるので、常に食べ物を食べられるようにしておく必要がある生き物だからである。
「さてと、俺も朝ご飯用意しないと」
涼はすぐにキッチンに向かった。
ぴぃのケージを開けたことを忘れたままで……。
※ぴぃ初登場は25話になります
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます