第35話 思わぬケガ

トールは思わず後ろを振り返る。

「失礼いたしました」

ドーリッシュは落ち着いて先に詫びを述べる。

「梨奈、様子を見てくれる?」

「はい」

梨奈はキッチンに入って様子を見る。

そこには、割れたお皿と尻をさする涼、そして困り顔のジーンがいる。


「ど、どうしたの?」

梨奈は涼に声をかける。

「あいってて……!」

涼は尻もちをついている。

「ごめんよ、涼くん。ケガはないかい?」

「俺は大丈夫ですけど……、お皿が……」

その言葉通り、破片が見える。

涼は手を付きながら立ち上がろうとする。


「ちょ、ちょっと涼、手のひら!」

梨奈は慌てた声で言う。

「え? あいたっ……!」

「だ、大丈夫かい……? あ、破片で手を……」

ジーンは申し訳なさそうに言う。


梨奈は慌てたように、キッチンペーパーを涼の手のひらに巻き付ける。

「応急処置にはならないかも……」

「ちょっと手を切っただけだって」

「けど、結構出血が多いよ!」

「トールくん、涼くんを治療してあげられるかい?」

「分かりました!」

トールは涼の手を引っ張る。

「ちょ、ちょっと! いてっ! 痛いって!」


梨奈は少し心配そうに涼を見守る。

「店長……」

「うん、何だい、梨奈ちゃん」

「トールは力加減って苦手なんだけど?」

「まあ、涼くんなら大丈夫じゃないかい?」

「トールは馬鹿力なんだけど……」

梨奈は呆れたように言う。


というのも。

梨奈もトールの怪力に困っているのである。


「ちょっと手のひら見るよ」

「お願いします……、って痛い!」

「あぁ、ごめんね……。僕、力加減って苦手で」

「だ、大丈夫……。俺もできる限りは我慢するから……」

トールは涼の手のひらにガーゼを当て、手当てをする。

幸い、傷の奥に皿の破片などは入っていなかったようだ。


しばらくして、涼は手のひらに包帯を巻いて戻ってきた。

「大丈夫?」

梨那は心配そうに言う。

「う、うん、何とかね」

涼は苦笑いして言う。

「無理をしないようにね」

ジーンも心配そうに声をかける。

「ありがとうございます、店長」

「今日はそこを掃除だけして、上がってもらって良いよ。大事を取ってね」

「俺は大丈夫なんですけど……」

涼は困ったように言う。

「さすがに、出血もあるから……、明日また頑張ってもらいたいからね」

「……分かりました」

ジーンは頷く。

「じゃあ、お掃除だけお願いね」

「はい……」

涼は箒を持ってきて、割れた食器類を片付ける。

「店長、結局あれは何だったんだい?」

「ああ、ごめんね。ドーリッシュくん。ちょっとした事故だよ」

落ち込んだ様子の涼がちりとりを取りにそばを通りかかる。

「大丈夫かい?」

「あ……、ドーリッシュさん……」

「ケガしてるなら、無理しなくていいんだよ。裏で頑張ってくれているのはわかっていたさ」

「穴をあけて、それに足を引っ張ってごめんなさい……」

「大丈夫だよ、誰でもあることさ。とりあえず、今日は店長の指示に従って休みな」

ドーリッシュは涼を安心させるように言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る