第31話 スタッフの休息
昼の営業が終わり、ドーリッシュはトールと共に昼食を取る。
ジーンは昼の営業が終わる少し前に、ちょこちょこ昼食を食べており、昼の営業が終わると同時に二階にある自室でダラダラ過ごしという些細な贅沢を謳歌しに行ってしまったのである。
「ドーリッシュさん、今日の魚ってなんですか?」
「これかー?」
ドーリッシュはフォークで魚の切り身を刺す。
ドーリッシュもトールも、出身地の都合上、上手く箸を使えない。
その為、二人はフォークとスプーンで食事を摂っている。
「店長曰く、カツオの一種なんだって」
「つまり……?」
「僕も詳しい品種は分からない」
ドーリッシュは笑って言う。
「けど、毒は無いから安心して食べな」
ドーリッシュの言葉に、トールは苦笑いしながら魚の刺身を食べる。
「……でも、もちっとした食感がして、凄く美味しいです!」
「だろ? ほら、どんどん食いな」
「良いんですか?」
「刺身だけなら僕でも作れるさ」
ドーリッシュは笑顔でトールに食べるよう勧める。
「ふぅ、お腹いっぱいです……」
トールは満足げに言う。
「ハハハ、僕も魚も満足だよ」
ドーリッシュは笑顔で言う。
というのも。
トールはドーリッシュの釣ってきた魚の料理をお代わりして食べた。
しかも、捌いたのはドーリッシュである。
ジーンのように煮付けるには時間がかかりすぎるから、ドーリッシュはトールのお代わりには刺身にして魚の切り身を出している。
トールには、『痩せの大食い』という言葉こそよく似合う。
それほど良く食べるのである。
「あ、あの……」
「うん、どうした?」
「僕も、ドーリッシュさんみたいに魚を捌きたいです……」
トールは恥ずかしそうに告白する。
「お、良いぞ! 教えるからいつでも都合がいい時に言ってきな」
ドーリッシュは笑顔でトールの頭を撫でる。
ドーリッシュは笑顔の裏で少し寂し気の顔を見せた。
「……ど、ドーリッシュさん?」
トールは驚いて戸惑い、声をかける。
「うん?」
「どうしたんですか……?」
「……いや、何でもないよ」
ドーリッシュは苦笑いして誤魔化した。
「さてと、僕は先に部屋へ戻るよ」
「は、はい……」
トールはドーリッシュの後ろ姿を見送った。
だが、ドーリッシュの後ろ姿にはいつものような兄貴分の威厳は感じられなかった。
涼は部屋で仮眠をとっていた。
どうも今日は眠気がする。
そんな思いからだ。
『……?』
涼は見たことがあるような不思議な空間にいる感触がする。
そして、目の前に大きな背中が見える。
「誰……?」
『大きくなったな……、涼』
涼は戸惑い、黙りこくる。
『涼……、顔を見せてくれ』
涼は戸惑いを隠せないながらも、顔を見せる。
「あ、あの……」
『いい面だ。やりたいこと、やってきな! 俺の弟なんだから大丈夫だ』
青年の影はそう言って笑う。
「兄貴……? でも、俺って一人っ子って……」
涼は戸惑いを隠せないまま影を見つめる。
『涼、お前は本来双子として生を受ける予定だったんだよ』
影は苦笑いしながら伝える。
「え?」
涼は思わぬ言葉に戸惑い、目を閉じて記憶を辿った。
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