第30話 トラブル

じわじわとドーリッシュの体重がかかってくる。

「は、はい……、って痛い!」

「おっと、ごめんよ」

ドーリッシュは笑って言う。

「びっくりしたなぁ、もう……」

涼は苦い顔で言う。


「ドーリッシュ!」

キルシェは厳しい声で言う。

「ん? なんだい?」

ドーリッシュはぽかんとした顔をしている。

「悪いんだけど、涼にあんまりイタズラしない方がいいんじゃない? 怒らせたら怖いと思うわよ」

「あ、お、俺は良いんですけど……」

涼は苦笑いして言う。


「涼くんは良いってさ」

ドーリッシュはからかうような口調で言う。

「あ、あと、俺のことは涼でいいですよ、ドーリッシュさん」

「ふぅん? じゃあ、涼って呼ぶよ。僕のこともドーリッシュでいいから」

「は、はい」

「じゃあ、今日は頼むよ、涼」

「俺なりに頑張りますよ、ドーリッシュ」

ドーリッシュは笑って軽く手をあげる。

そして、ホールへと戻っていった。


「ちょっと軽いところがあるのよね、ドーリッシュは」

「でも、悪い人じゃないのは良く分かります。だからここでもいろんな人に人気なんじゃないですか?」

「まあ、そうとも言えるわよね」

キルシェは笑って言う。

「ただね、私が言うのもなんだけど……」

「はい……」

「実際トールと涼、ドーリッシュの三人なら、一番兄貴分の性分をしているから、私も頼ってしまうことが多いのよ」

涼は何となく気付いた。

確かに、彼は兄貴分としても良い性格をしている。


「さてと、私は事務作業しないと」

キルシェは椅子から立ち上がる。

そして、奥の部屋のパソコンを開く。


「え……」

キルシェの驚いた声がする。

「どうしたんですか?」

涼は不思議そうに声をかける。


「店長、二件キャンセルって……」

「また当日キャンセルか……」

ジーンは困り顔で言う。

「キャンセルの理由ってなんか書いてある?」

ドーリッシュはキルシェに声をかける。

笑顔ではなく、ドーリッシュも心配そうな顔だ。


「一件は、四人家族で子どもの発熱ですって……。もう一件は書いてないわ」

「もう一件の方、何人?」

ジーンは毅然とした声で言う。

「ええっと、五人、友人同士みたい」

「ああ、またか……」

ジーンは残念そうに言う。

「多分、愉快犯だよ」

ジーンは呆れたように断言する。

「え?」

「迷惑な話だねぇ、まったく……」

戸惑う涼の隣で、ドーリッシュは苛立ったように言う。


「もし、来週とかに一件目のお客さんが予約入れたら、少しサービスしてあげよう」

「分かったわ」

キルシェはパソコンに何か打ち込んでいる。

「やっぱり、子どもが熱を出したと言うなら、元気になってきてほしいからね」

ジーンは笑顔で言う。

ジーンの優しい対応が、店の人気の秘訣だ。

涼は咄嗟にそう勘付いた。

「それとね、涼」

「はい……?」

「あなたのお友達のタケって人、来週来るから」

「わ、わかりました!」

涼は少し嬉しい気持ちになる。

来週には、親友に会えるのだから。

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