第29話 兄貴分

涼は驚いて振り返る。

そこには、三人組の女性がいる。

全員、涼と同じくらいだろうか……。


「ドーリッシュは女性客に評判なのよ」

キルシェは気にすることなく言う。

「まあ、男の俺から見てもイケメンだとは思う……」

「そうかもね。ドーリッシュは背も高いし、あのさわやかスポーツ青年って印象が良いってよく聞くわ。対応も悪くないしね」

涼は苦笑いする。


背こそはそれなりに……、少なくともトールよりは高いが、涼はどちらかというと大人しい文学青年のようなタイプである。

あまり派手なことは得意ではない、どちらかというと素朴な性分だ。


「ドーリッシュさん、三番テーブルの料理上がりました!」

「オーライ!」

ドーリッシュは笑顔で女性客に軽く手を振り、料理を提供に行く。

女性たちは少し不満げな顔をする。


「じゃあ、これを頼むよ」

「オーケー、了解です、店長」

ドーリッシュは料理を二つ持って運ぶ。

「お待たせしました、こちらが海鮮パエリア、こちらが日替わり定食でございます」

ドーリッシュは笑顔を絶やさず接客する。

料理を出すのも早いが、ドーリッシュの手つきはとても繊細なものを扱うように丁寧だ。


「ほかにも追加などありましたら、お気軽にお申し付けください。失礼します」

ドーリッシュは会釈してその場を去る。

「ここ、定食屋よね?」

「うん、そうだよ」

「とても受け答えが素晴らしいわね」

「ああ、こんな定食屋はなかなかないぞ」

座っていた二人……、老夫婦が喜んで言う。


「ほうほう、ドーリッシュはこうして人気になっていくのね」

キルシェは満足そうに言う。


「さてと、ご馳走様」

涼は食べ終わったお弁当箱を持つ。

「あ、お弁当箱はそこに置いておけばいいわ」

キルシェが大きなざるを指さして言う。

「はい」

涼は言われた通り、ざるに入れる。


「店長、賄いごちそうさまでした」

「お粗末様。美味しかったかい?」

「すっごく美味しかったです!」

「それはよかった」

ジーンは安心したようである。

昼の営業はさほど混んでいないから、ジーンも穏やかである。


「今晩は忙しくなるから、二人ともしっかり休んでおいてよ」

ジーンは笑顔で言う。

「は、はい……」

涼は苦笑いして顔が引きつる。


「ご馳走様でした。さてと、私は少し事務処理やったら部屋に戻ろうかしら」

「ああ、頼むよ」

「そういえば、店長」

「うん、なんだい?」

「今日はアンネロッテと梨那りなも来るのよね?」

梨那とは誰だろう?

涼は不思議そうにしている。

「ああ、今日はフルキャスト総力戦だね」

「予約多いんだっけ、今日は」

キルシェは苦笑いしてリストを見る。


涼も一緒にリストを見る。

ずらっと名前が並んでいたリストに、涼は思わず硬直する。

「予約は10件、今日は……、飛び入りはお断りの日ね」

「え? そういう決まりなんですか?」

「ええ、そうよ。そもそも、予約が全員一人じゃない。それに、時間もずらしながら調整を入れているの。お店がこの通り小さいからね」

キルシェは苦笑いして言う。

「安心しなさい、涼。あなたは基本、店長を手伝ってくれればいい。ホールは先輩の私たちに任せていいから」

「ヘルプが必要な時は、力を貸してもらうよ」

ドーリッシュは涼の肩に手をまわして笑って言った。

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