第28話 豪華な昼ごはん

ぴぃは寝床をくんくんと匂いを嗅ぎながら歩いている。

干し牧草……、チモシーの匂いを嗅ぎつけたぴぃは、チモシーをちょこちょこ食べる。

「あ、それ寝床の草なんじゃないの? 食べてるけど、良いの?」

キルシェは涼に心配そうに声をかける。

「ああ、大丈夫ですよ。モルモットにとって、これは寝床と同時に食料なので。それに、モルモットは常食動物といって、常に好きなだけものを食べられるようにしておかないといけないんです。だからこそ、チモシーを多めに寝床代わりに置いているんです」

「そうだったの……。ぴぃちゃんにとっては大事なことだったのね」


ぴぃはぷいぷい鳴きながら、ご機嫌そうにチモシーを食べている。

「ご飯食べながらぷぷぷって鳴いているんだね……」

ドーリッシュは少し驚いたように言う。

「そうなんですよ。機嫌がいい証拠です」

涼は笑って言う。

「あとでおやつあげるからな、ぴぃ」

「おやつって何をあげるんですか?」

トールは興味深そうに聞く。

「ピーマンとか、キャベツとかレタスとか。あとは生牧草も好きなんですよ、うちのぴぃは。モルモットは完全草食の動物だから、基本的に野菜ですよ」

涼は少しチモシーを足し、水差しに水をたっぷりと入れる。

ぴぃは水を飲み、またチモシーを少しずつ食べる。


「あ……そろそろ昼の集合時間になるよ」

ドーリッシュが全員に声をかける。

「私と涼は昼のシフトを休みになっているから、お昼ご飯だけ食べに行くわ」

「今日の賄いには、カレイは煮付けるって言ってたから、煮付け定食か刺身定食だろうね。僕が魚をたっぷり釣ってきたから」

「わぁ! 俺魚料理好きなんですよね……」

涼は笑顔で言う。


四人はSternen zeltに向かう。

歩いてすぐの社宅、そして海に店。

立地が本当に便利だな、と涼は感じた。

ただ、夏は台風の季節でもある。

唯一、水害だけが怖いなと感じてはいたが。


「やあ。待っていたよ。ドーリッシュくん、トールくん、ランチタイムよろしくね」

「ああ、任せてくれ」

ドーリッシュは笑っていい、制服に着替える。

「はい、店長! 頑張ります」

「うんうん、トールくんは素直でよろしい」

ジーンはそう言って笑った。


「そういえば、来週予約があるっていうことを共有しておかないとね」

「詳しいことは後で報告記録を作っておくわ」

キルシェはここでは事務員も兼ねているようだ。

「ああ、よろしくね、キルシー」

「予約……、どんな人だろう?」

「ご新規さんだよ」

ジーンはそう言ってうれしそうに笑っている。


「そうそう、二人は賄い食べに来たんでしょ? こっちによけてあるお弁当箱が賄いだよ」

「わぁ!」

長方形の形の立派な弁当箱が二つ置いてある。

「ドーリッシュくんとトールくんのは、傷まないように冷蔵庫へ入れてあるから安心してね」

「ありがとな、店長」

「嬉しいです」

二人も機嫌よく言う。


「ちなみに、食事はここで食べていっても良いし、社宅に持って行っても良いよ。でも、社宅で食べるなら悪いんだけど、容器を洗っておいてくれないかな?」

「分かりました」

涼は頷く。

「私はここで食べていくわ。涼はどうする?」

「じゃあ、俺も……」

涼はキルシェと昼食を食べた。


昼食は、カレイの煮付けが一切れ、そして刺身が5枚ほど。

そして野菜と酢の物、ご飯も半分。

とても豪華な昼ご飯だ。

「いただきます! わ……! すごく美味しい!」

「いただきます。今日は本当に豪華ね。嬉しいわ」

キルシェも涼も、笑顔で昼ご飯を食べる。

「ドーリッシュ、本当にありがとう」

「お気になさらず、なんてね。釣りは僕の趣味なんだよ」

ドーリッシュは豪快に笑って言った。

フロア側から、キャーという黄色い悲鳴が聞こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る