第27話 新居

パソコン画面から二人は同時にネットの孤島へと向かう。

「いてっ!」

「いたた……」

二人は途中でぶつかり、転がるように砂浜に落ちた。

ドーリッシュはぴぃのケージを受け止めた。

「プルル……」

ぴぃは警戒して威嚇声を出す。

「大丈夫かい? ちょっと待っててな」

ドーリッシュは少し離れたところにケージを置く。


「大丈夫かい、お二人さん……」

ドーリッシュは呆れたように言う。

そして、涼に手を貸す。

キルシェは呆れたようにトールを見て、手を差し伸べる。

「いつまで転がってるつもり?」

「ごめんなさい……」

二人は立ち上がって砂を払う。


「二人とも、いっぺんにこっちに出ようとしたでしょ」

「そういえば、全く同じタイミングで飛び出してしまいましたね……」

「ああ、ごめん……。俺が声をかければよかったね……」

「さあ、さっさと荷物運び込むわよ。荷解きは手伝った方が良いかしら?」

「じゃあ、ぴぃの寝床を作るまでぴぃを見ててほしいです」

「わかったわ」

ドーリッシュはぴぃのケージを涼に手渡す。


「ぴぃ、ごめんな。大丈夫かい?」

プルル、と嫌そうな声をしつつもぴぃは涼の顔を見る。

あとでおやつを奮発してやろう……。

涼は苦笑いしながら考えた。


「ところで涼くん」

「はい、なんですか?」

「この子はぴぃちゃん、って名前なのかい?」

「そうですよ。ちなみに、女の子です」

「そうなのか。可愛いねぇ」

ドーリッシュは笑顔でぴぃを見る。

「ドーリッシュは動物が好きなの。けど、喫煙者だからちょっと敬遠されがちね」

「ニコチンの臭いかな……。やっぱり、これを機に禁煙しようかな」

「健康も考えるなら、早く禁煙しなさいな」

キルシェは手厳しく言う。

ドーリッシュは苦笑いするだけである。


ドーリッシュは荷台を引きながらだが、全員そろって歩いて社宅に向かう。

「海の家、って感じだね」

涼は思わず思ったことを言う。

「中は個室になっているけど、そこそこ広いと思うよ」

ドーリッシュは笑って言う。

「ちなみに、あちらの建物は女性寮になっています」

「男女別れているんだね」

「トラブル防止の為に、って店長がね」

「そうなんですね……」


涼はドーリッシュから鍵を受け取る。

「さあ、ここがしばらく君の部屋だよ」

「じゃあ、入ります……」

涼は鍵を開けた。


「わぁ……! 広い……!」

涼は目を輝かせる。

部屋には簡易ベッド、そして小さいテーブルが一つと電子レンジ、冷蔵庫と小さめのキッチンスペースがある。

そして、トイレと風呂場、洗濯機まである。

いわゆるワンルームマンションタイプの部屋である。


「ぴぃ、ここが新しいうちだぞ。寝床作ったら、部屋んぽしような」

「部屋んぽって何?」

キルシェは怪訝そうに聞く。

「ちゃんと場所は区切りますけど、部屋の中を歩かせて散歩させることですね。モルモットもちょっとした運動が必要ですが、外に出すのはさすがに危険が多くて」

「ぴぃちゃんさえ良ければ、屋上を使うと良い……と言いたいところだけど、暑いもんな……」

ドーリッシュは提案しようと思ったが暑さを理由に撤回する。

「少し涼しい日は考えてみます」

「そういう時は僕に声をかけてくれ。僕が屋上にいることが一番多いし」

ドーリッシュは涼にそう声をかけた。

「ありがとうございます」

涼は笑顔でお礼を言い、てきぱきとぴぃの寝床を作ってぴぃを寝床へ放した。

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