第25話 大切な家族

涼はシャワーを浴びた。

一日で色々あったな……。

そんなことを思いながら。


「来週はタケにも会えるな……。楽しみだ」

涼は髪を洗いながら、明日はどうなるのかと心配になってきた。

「そういえば、ドーリッシュさん、どうしているのかな? 夜中もずっと釣っているのかな?」


「へくしゅっ……!」

ドーリッシュは船の上でくしゃみをした。

「誰かウワサしてるな……。明日は店長も喜ぶだろうし、賄いは基本魚料理だな」

ドーリッシュはクーラーボックスを見る。

たっぷりと魚が詰まっているから、ドーリッシュは満足している。

「ま、これくらい釣れたら、十分かな。そろそろぼちぼち戻るかね……」

ドーリッシュは船を運転しつつ、時折夜空を見上げる。

「うん、良い空……」

煙草の煙が空を舞った。


ちゅんちゅん、と鳥の声が響く。

「ん……?」

涼は目を覚ます。

「……あれ? ここは……?」

寝起きで頭が働かない。


だが、ゆっくりと思い出す。

そう、ここはネットの孤島。

そして、ジーンの住居に泊めてもらっている状態だということに。


「や、やばい! ぴぃの世話!」

「ぴぃってなに?」

「て、店長……」

涼は思わず出た言葉に反省する。

「じ、実は俺と同居しているモルモットって生き物で……」

「モルモット、ってあのプイプイ鳴いてるやつでしょ?」

「そうです!」

涼は大人しく認める。


「こっちにも、もちろん連れてくるつもりだよね?」

「そりゃ、ぴぃは家族ですから」

「もちろん構わないけど、ちゃんとぴぃちゃん? 大事にするんだよ!」

「ありがとうございます……」


「涼、いる?」

キルシェは朝から鋭い声をする。

「はい!」

「トールを連れてきたわ。トールはあなたの許可をもらってから部屋に入るし、ドーリッシュは後で合流するけど。荷物運び込むから」

「ああ、はーい!」

涼は一日ぶりに自分のマンションに戻って来た。

「あ、俺……一か所行かなきゃいけないところがあって」

「良いわよ、行ってきても」

「ありがとうございます……!」


一日ペットホテルに預けていたぴぃは、とても元気だ。

涼を見て、ぷいぷい鳴いている。

「ごめんごめん、今日からしばらくちょっと別のところで住むけど、兄ちゃんはぴぃと一緒だからなー」

涼に撫でられ、ぷぎゅぷぎゅと声を出すぴぃに店員も笑顔を見せる。

「ぴぃちゃん、お兄ちゃん大好きですねー!」

「昨夜はありがとうございました。ぴぃ、迷惑をかけませんでしたか?」

「いえいえ。とっても可愛くてお利口さんでしたよ」

「そうですか、良かった。ぴぃ、お利口さんにお留守番できて偉かったね。今日は特別なおやつあげような」

ぴぃはぷいぷいと嬉しそうに鳴く。


涼は急いでぴぃと部屋に戻る。

「すみません、お待たせしました。」

「遅いわよ!……って、なにそのかわいい子」

「俺の大事な家族のぴぃです。モルモットっていう動物なんです」

「可愛い! ぷいぷいってお話するのね」

キルシェはぴぃを気に入ったようだ。

「キルシー、僕、テンジクネズミ運ぶのは……」

おどおどとした青年がいる。

彼が誰か、涼はすぐに察した。

そう、トールは大人しい男だったとすぐに分かったのである。

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