第24話 賄い

ジーンは二人に負け劣らず、大盛りのオムライスを持ってくる。

本当に見かけによらず、大食らいなのか……。

涼はそう思いつつも、黙っておくことにした。


「どうかい? 美味しいかい?」

「美味しいです」

「シーフードオムライス、最高……!」

キルシェは心底、シーフードオムライスが好きらしい。

ジーンは安心している。


「あー、テーブルに他のおかずもあるからね」

「良いの?」

「うん。今日は営業終了だからね。いっぱい食べて良いよ」

「あ、ありがとうございます……」

涼はテーブルを見て苦笑いする。


テーブルの上には、野菜サラダに、焼き鳥。

さらにミネストローネに不思議な麺類が置いてある。

「あ、あの、これは……?」

涼はジーンに料理を指さして聞く。

「カッペリーニかと思ったけど、麺が白いわね」

キルシェも不思議そうに言う。

「いや、よく見たらピンクと緑の面もあるぞ……。まさか……」

「ああ、カッペリーニが切れていてね。代わりになる物がそうめんしかなかったんだ」

ちなみに、カッペリーニとは端的に言えば極細パスタである。

天使の髪の毛、というほどの繊細な細さなので、冷製パスタには非常に相性が良い。


「……というと、これは」

「そうめんのトマトソース和え、まあ、和風冷製パスタだと思ってくれればいいよ」

ジーンは笑って言う。


キルシェと涼は取り皿にそうめんのトマトソース和えを入れる。

「お、美味しいのかな?」

「さあ……」

二人はフォークでキレイに巻き取りながら、取った分を食べる。


「……あ!」

「これはこれで、ありかな」

「意外に合う!」

二人は感心したように言う。

「店長、今度作り方を教えてもらえますか? タケにも作ってやりたいなぁ」

「いいよ、教えてあげる!」

「ところで、これってメニューには」

「もちろん、載ってないよ」

「え? そうなの?」

「カッペリーニのメニューは載せているけど、そうめんは裏メニューだよ」

「そういえば店長、飲んでも良いの?」

「ああ、ビールは良いよ」

「……定食屋じゃなくて、居酒屋だったっけ、ここ?」

「細かいことは気にしないで、ビールだけなら少し空けていいからね」

ジーンは笑って言うが、涼は怪訝そうだ。


「お腹いっぱい……」

「俺も……。腹いっぱい」

「このくらいで良いね、三人分なら」

キルシェと涼は流しに皿を浸す。

「さてと、片付けをしたら今日はおしまい!」

ジーンは笑顔で言う。


涼は率先して皿を食洗器に入れる。

「あー、ありがとね」

「いえいえ……」

ジーンは嬉しそうに言うが、食後だからか、さらに暑く感じた。

「今日はみんなで早く上がれそうね」

キルシェは嬉しそうに言う。


流しを片付け終わり、涼は手の甲で額を拭く。

「じゃあ、私は帰ろっと。涼は、明日部屋に案内するから。今日は店の二階で寝て頂戴」

「分かりました」

「じゃあ、また明日ね」

「はい、お気をつけて」

キルシェが見えなくなるまで、涼は外で背を見送った。

「……俺もシャワーとか浴びれるのかな?」

「風呂場はあっちだよ」

「店長! いたんですね」

「驚いてない……。驚かしたかったんだけどね」

残念そうに風呂場を指さすジーンに、涼は冷静に言った。

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