第22話 場所の秘密
キルシェはお盆に台拭きを乗せ、夏生のいた席を台拭きで拭き、飲んでいた紅茶のカップをお盆に乗せる。
「あら? メモ?」
それは、夏生が残したメモである。
それも、キルシェ宛、涼子宛、ジーンあての三枚だ。
一体いつ書いたのか……。
キルシェは内心そう思う。
「……嬉しいな」
キルシェはメモの内容を見て、嬉しそうに笑顔を浮かべ、メモをエプロンのポケットに滑り込ませた。
一方、涼は着替えてからテーブルの片づけに回っていた・
「わ……。すっげ!」
涼は思わず感動する。
というのも。
あれだけたっぷりとオーダーしていったのに、二人できれいに完食して帰っていたのである。
きれいに完食されて、串だけが残った皿。
涼は小気味いい気分になる。
先に大皿の上に小皿を乗せる。
そして、流し場に下げた。
「すごいね!」
ジーンも驚いた声を上げている。
「二人でも食べきれない量だったとか?」
「うーん、個人差だね。よく食べる二人組なら、あれでも足りないって言われるくらい……。小食なら三人組でも残してあるときもあったから……」
「そうなんですね……」
ジーンは目を輝かせている。
完食した、という事実がとても嬉しいのだろう。
「あ、そういえば店長」
「なんだい?」
「バイト初日にこんなことを言うのもおこがましいんですが……」
「うーん? とにかく聞くよ」
ジーンは不思議そうに言う。
「実は、親友を招待したいなって……その、思っているんですが……」
涼の言い方は歯切れが悪い。
「いや、そりゃ大歓迎だよ!」
「それは嬉しいですが……あの、実は俺、ここの場所にどうやって彼を招待したらいいか……。そもそも、ここがどこかすら、俺もわかっていないし」
「……キルシー、また説明はしょったね」
ジーンは困ったように言う。
「基本的に、説明はキルシーがしてくれる手筈なんだけど……」
「じゃあ、キルシーさんに聞いた方がいいですか?」
「良いよ、僕だって説明できるんだから」
ジーンはどや顔で言う。
「ここにはいろんなお客さんが来ているだろう?」
「はい……」
明らかに日本人だと確信が持てるのは、さっきの二人組ぐらいだ。
獣人族、とジーンは教えてくれた夏生や寅彦、カプレ一家。
確かにバラエティに富んでいる。
「ここはさ、誰も知らない港の傍にあるだろう?」
「はい……」
「そして、君はどうやって来たか、分かっているだろう?」
「はい、メール画面から……、ってまさか」
「ここはいわゆる『ネットの孤島』と呼ばれている世界なんだ」
「ね、ネットの孤島……!? じゃあ、俺って今どんなことになっているんですか!?」
「ああ、大丈夫。元気で生きているって」
「いやいや、現実世界でってことですって!」
「現実世界って、涼くんが暮らしている世界のことかい?」
「はい」
ジーンは笑っている。
「確か、君って日本って国にいたよね?」
「はい」
「現実世界、ってものなら、日本の孤島のどこかにいる、という体裁になっているよ。まあ、詳しいことはあまり僕も知らないんだけど、ここの地名は正式にはネットの孤島ということだけは断言できるよ」
「孤島のどこか……」
涼は唖然とする。
改めて自分の手を見るが、やはりいつもの普通の体だ。
「どうやってタケに説明しよう……」
真相の一部を知って、涼は小さく頭を抱えた。
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