第21話 思わぬお誘い

カップの中に入っていく紅茶は、とても美しく思えた。

キルシェの表情がそう思わせるのかもしれない。


「良い香りの塩梅だね」

「淹れ手も大事な要素だものね、店長」

キルシェは笑っている。

「ドリンクマイスターの名は伊達じゃないねぇ」

ジーンの声に、涼は不思議に思う。


「さあ、涼子! 夏生様のところに紅茶を出すの」

「は、はい……」

涼子は困った顔をしながら紅茶を提供に向かった。


「ありがとう……」

「い、いえ。あ、お皿もおさげしますか?」

「ええ……、お願いします……」

「はい、かしこまりました」

涼子は笑顔で夏生の食器を下げた。


「あなたは……新人さんよね……?」

「ええ、そうです」

「これからよろしくお願いします……」

夏生は恥ずかしそうにそういうだけだった。

そして、熱い紅茶をごまかすようにほんのりと口に運ぶ。


涼子は苦笑いして様子を見守る。

「あつっ……」

「大丈夫ですか!?」

涼子はやっぱり……と思いながら夏生に水を勧める。

夏生は水を少し口にし、落ち着いたようだ。


「お恥ずかしいところを……」

「いえ、お気になさらず」

夏生の頬は赤い。

相当恥ずかしがっているようである。


「あ、あの……」

「はい、なんでしょう?」

「……また、必ずお伺いしますから……。今度、少しお話し相手になっていただけませんか?」

「ええ、ぜひ」

涼子はそう言って笑顔を見せた。


しばらくして、紅茶を飲みほした夏生は会計に向かってくる。

「では、恐れ入ります」

キルシェはそう言って、料金を受け取った。

「あの、ジーンさん……」

「どうしましたか?」


夏生は恥ずかしがって言いづらそうだが、意を決する。

「こ、今度……涼子さんとお茶をする時間をいただけませんか」

「もちろん、こちらとしては涼子さえ許可するなら問題はございませんよ」

ジーンは朗らかな笑顔で返す。

「私も楽しみです」

涼子は笑顔で言う。

「では、また近いうちに予約させて下さね」

「ぜひ! お待ちしております」

三人は夏生を見送った。


涼子は店内に入ろうとして空を見上げて、目を輝かす。

「どうしたの?」

キルシェが不思議そうに言う。

「流星群だ!」

「あら、今日は珍しいわね……」

「星空のダンスパーティ……なんてね」

ジーンはてへぺろ、と言わんばかりに右目を閉じてウィンクした。


「すみませーん、お会計を!」

男性二人組がレジにいる。

ジーンは反応に困っているキルシェと涼子を置いて、大急ぎでレジに向かった。

「お待たせいたしました、お客様」

てきぱきと会計を済ませる。

「店長、ごちそうさん!」

「すげー美味しかったよ」

二人も笑顔で帰っていく。

ジーンは嬉しそうに踊りだすが、キルシェと涼子はテーブルを片付けに走り、ジーンは相手にされなかった……。

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