第19話 間一髪!

たまたまカレー用のお皿を渡しに来た涼は、ジーンが足を滑らせたところを見た。

「あぶねっ!」

すばやくジーンの腕をつかむ。

「助かったよ」

ジーンはほっとしたように言う。


「店長、危ないじゃないですか……」

呆れたように涼は言う。

そう、もし涼が手を掴まなかったら、ジーンはアツアツのトマトライスカレーの中にダイビングしてしまうところだったのである。

「ハハハ、ありがとうね」

「笑い事じゃないですよ!」

ジーンは照れ笑いしている。


「さてと、急いで盛り付けてしまおう」

ジーンは笑顔で言う。

「まあ、お待たせしちゃ申し訳ないと思いますし」

涼は苦笑いしながら、しばらくジーンを見守ることにした。


「さてさて。先にトマトライスを、っと……」

ジーンはしゃもじでわっせわっせとトマトライスをお皿に盛りつける。

そして、右の端にミニトマトと福神漬けを添える。

そして、左側からカレーをかける。


「さてと、仕上げに……」

上からパラパラとチーズ、パセリのみじん切りをかける。

そして、トマトの隣に小さな房のパセリを添えた。

「美味しそう……!」

「実はここでも人気メニューなんだ」

ジーンは嬉しそうに言う。


「そろそろメイン出せる?」

キルシェの声が聞こえる。

「うん、もう出せるよ」

「じゃあ、サーブするわ」

キルシェは笑顔で夏生のもとへと料理を運ぶ。


「お待たせいたしました。こちら、トマトライスカレーです」

「いつものことながら……、とても美味しそう……」

夏生の表情も明るい。

「ゆっくりご賞味くださいね。失礼します」

キルシェは笑顔でその場を離れる。


彼女はそっと、カレーを一口口にする。

「……美味しい」

笑顔の夏生に、ジーンたちもホッとする。

「どうやって作れば……、こんなに美味しくなるのでしょう……」


「それにしても、この鉄板焼きそばは食べ応えがあるな」

「うん、凄く美味しいよな!」

「Sternen zelt、値段は安いけどここならリピするなー」

「俺も。スタッフの姉さんたちも可愛いし」

涼はその言葉に複雑な気持ちを抱いた。


「涼子ちゃん、そろそろ焼き鳥をサーブして」

「あ、はい!」

涼は小皿と共に焼き鳥をサーブする。

「お待たせいたしました。焼き鳥のアソートです」

「おお、美味そう!」

「こちらの小皿に、串をお入れくださいね」

「さすが、気が利いてる!」

二人は笑顔で言う。


「キルシー、そろそろ食後の紅茶を用意する準備はしている?」

ジーンはキルシェに声をかける。

「ええ、まだ気持ち早い気もするわ」

「そうかもしれないけど、用意だけならそろそろと思ってね」

「そうね、慌てる前に準備しましょう」

キルシェも言葉の意味を理解して、準備を始めた。


「紅茶?」

「ああ、夏生様は食後に紅茶を飲むんだ」

「茶葉も店長のブレンドの物を飲むのよ」

「どんな茶葉を?」

ジーンは笑っているが、教えてくれるような気配はなかった。

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