第18話 繁忙時間

ジーンは早速、前菜を用意している。

「キルシー、そろそろ前菜が上がるよ」

「はい!」

キルシェはすぐにスタンバイしている。


「おーいお姉さん、注文いいかい?」

二人組の男性客が涼子へと話しかける。

「はい、ただいま」

涼子はすっと二人に寄った。


「この鉄板焼きそば特盛り一つ、取り皿二つ。それと、焼き鳥アソートセットを一つ、ビールお代わり2杯頼むよ」

「かしこまりました。ええっと、ご注文を繰り返します」

「うん、頼むよ」

「鉄板焼きそば特盛りと焼き鳥アソートが一つずつ、取り皿は二枚のご用意、ビールのお代わりが二杯でお間違いないですか?」

「うん、問題ないよ」

「ありがとうございます。では、もう少々お待ちください。ついでに空いたお皿を下げましょうか?」

「お、気が利くね!」

「初心者マーク、新人なんだろ? すげーな」

「恐れ入ります」

涼子は照れ笑いした。


オーダーついでに浅漬けセットの食器を下げる。

「店長、オーダー追加です」

「了解、そこに磁石で貼っておいて」

「はい。あと、下げ物洗っておいていいですか?」

「ああ、じゃあそこの洗浄機に突っ込んでおいてくれればいいよ」

「分かりました」

涼はてきぱきと動く。


「夏生様、前菜をお持ちいたしました」

「ありがとう……。これ、私が好きな……!」

「はい、夏生様が好きだとおっしゃっていた、キャベツとにんじんのあっさり漬けでございます」

「ジーン店長のこのお料理……、嬉しいです!」

夏生の頬がぽっと染まる。

桜色に色づく頬に、キルシェも笑顔を浮かべる。


厨房では、再び涼とジーンがあちこちを往復していた。

「ソースの良い匂いがする」

涼は思わず声が漏れる。

「そりゃ、焼きそばだからね」

ジーンは笑って言う。

「さあ、急がないとね」

「了解です、店長!」

涼も気合を入れて補助に回る。


チーン、と子気味のいい音がする。

「もしかして、今焼き鳥上がりました?」

「うん、少し蒸らす。先に焼きそばをサーブできるようにするからね」

特盛りというだけあり、皿も深めで幅は普通の皿より広い。

「すごいですね……」

「これはシェアを前提に考えたからね。サーブするとき、気を付けて」

「はい……」

ずしりと重くのしかかる焼きそば。

一キロは恐らく超えているだろう。


「お待たせいたしました、先に鉄板焼きそば特盛りでございます」

「思ったよりもボリュームあるな!」

「ま、シェアすりゃ余裕だろ」

二人は笑っている。

「取り皿はすぐにお持ちします」

涼子はそう言い残して裏に回った。


「取り皿ついでにビールも提供してくれるかい?」

「はい、店長!」

涼はお盆にビール二杯と取り皿を乗せ、二人に提供した。

焼き鳥はもう少し待った方がよさそうだ。

ジーンは様子を見て判断した。


「次は夏生様のトマトライスカレーを……」

ジーンはてきぱきと用意しようとした。

だが、慌てていたジーンは、うっかりと足を滑らせてしまった……。

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