第17話 新たなお客さん

キルシェはジーンの不敵な笑みに戸惑う。

「え?」

「ここからが忙しいだろう」

食べられるかわからない、とキルシェは思った。


「食べられないってわけ?」

「シーフードオムライスはね」

その言葉に、キルシェは自分の勘違いに気が付いた。

そう、今日の営業中で材料が尽きたら、残念ながらスタッフ分のシーフードオムライスは作ることができない。

キルシェはその言葉に納得した。


「あーあ、私も食べたいなぁ……」

キルシェは未練がましく言う。

「そろそろ予約のお客様も見えるよ。ピークタイムだから、頑張って!」

「はーい……」

キルシェはジーンに不満そうな顔をするが、お客さんの前となれば花のような笑顔を振りまく。


「寅彦さん、お会計です」

「はいよ!」

ジーンが会計カウンターに立つ。

「……料理は美味しかったよ」

「またどうぞご贔屓に」

ジーンは笑顔で返す。

「特性ローストビーフ、今度は大盛りで頼むわ」

「テイクアウトもありますよ、旦那」

ジーンは笑って言う。

「わざとだろ! 俺は一人モンなんでな!」

寅彦は苦笑いする。

「だが、テイクアウトのローストビーフもいただこう。いくらだ?」

「じゃあ、お会計に足して、今日はこちら!」

ジーンは手書きの領収書を寅彦に渡す。


「ごちそうさん」

寅彦はそう言って不愛想に去ろうとする。

「ありがとうございます、またお待ちしています」

キルシェと涼子が笑顔で言うと、寅彦は一瞬とてもやさしい笑顔を見せた。


「ここの料理、美味いな!」

「ああ、本当にここは当たりだ!」

飛び入りの二人も喜んで食事をしている。

「おーい、お姉さん」

キルシェはその声にテーブルに近寄る。

「はい」

「メニューもう一回見せてもらっていい?」

「はい、すぐにお持ちしますわ」

キルシェはそう言って、すぐメニューを渡しに行った。


「ついかで何食う?」

「あ、この焼きそば気になるな!」

「俺も。んじゃ、大盛りにしてシェアするか」

「お、良いねぇ!」

二人は楽しそうに盛り上がっている。


カランカラン、と鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ!」

涼子はすぐに出迎えをする。

「こんばんは……。予約をしておりました……夏生なつきと申します……」

気弱そうな、細身の女性がそうか細い声で言う。


透き通るような白い肌に、少し幼さを残した顔。

涼子は思わず、美しさに見ほれそうになる。


「夏生様、いらっしゃいませ! すぐにお席にご案内しますね」

キルシェはそう言って席へと案内する。

隅の席に夏生は座った。


キルシェはバックヤードにこっそりと涼を呼びつけた。

「夏生様はうちの上得意様でね、大きな音とかに過敏な、卯雪族のご令嬢なのよ」

卯雪うせつ族……、確かに雪のウサギを思わせるような……」

涼はその言葉に納得をする。

「うちのスタッフのドーリッシュやトールを含めて、男性が苦手でね。悪いけど、涼子として接客を頼むわ」

「ま、まあ、そういうことなら」

涼は苦笑いして頷き、了承した。

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