第15話 飛び入り

寅彦は思うところがあるらしい。

「これ……」

「どうかなさいました?」

「ジーンの盛り付けじゃないね。でも、これはこれで好きだな」

その言葉に、キルシェもホッとする。

実際、大本のベースは涼が盛り付け、ジーンが少し訂正をしたのである。

だが、正確に見抜いた寅彦の言葉に驚きもしていた。


「さて、いただこう」

寅彦が一口煮つけを口にする。

「美味しいな……、相変わらず」

「うちの原点でもありますから」

「そう言えば、元々は和風料亭だったね。シーズン毎にいろんな店へと転じて、様々な料理を勉強していくというのがジーンのスタイルだったはず」

「そうなんです」

キルシェも頷く。


「キルシー、すまないが日本酒『熊なき日』をもらえるかい?」

「はい、かしこまりました」

キルシェは急いで日本酒『熊なき日』を用意する。

「今日もこれか……」

ジーンは残念そうに言う。

「『熊なき日』……ですか」

涼は苦笑いして言う。

「そうなんだよ……」

そう、ジーンはテディベアの姿をしたベアガル族。

つまり、ベア、熊である……。


「でも、これはどんな味なんだろう?」

「閉店後に少し試飲させてあげたいけど」

ジーンは心配そうに言う。

「俺は成人済みだ!」

涼はきっぱりと断言した。

ちなみに、涼は21歳。

日本ではしっかりとした成人である。


「まあ、個々の成人は19歳だから」

「うん、超えてる」

涼はきっぱりという。

「そっか、涼くんも超えているんだね」

「どういう意味だよ……」

涼は苦笑いして言う。

「ドーリッシュくんもアンネロッテちゃんも、結構飲む派なんだよね……」

経済的な理由に、涼は苦笑いして言う。

「ごめんね、店長。俺も結構飲むかも……」

ジーンはもはや、茶色い体毛が白く固まっていた。


「お客様来店です!」

「あ、い、いらっしゃいませ!」

涼……もとい涼子が表に出て笑顔で挨拶をする。

キルシェの対応から、恐らく飛び入りの客らしい。

彼らは二人組で、普通の人だ。


「メニュー見せてくれる?」

「は、はい! ただいま!」

涼子は急いでメニューを渡す。

「さすが定食屋だ」

「大抵家庭料理の応用位な料理が多いな」

飛び入りの客たちはメニューを見て笑う。


「どうするよ?」

「じゃあ、俺はこの『シェフの気まぐれオムライス』にしよっと」

「いいねぇ! じゃあ、僕は『ワインのハッシュドビーフ』にしよう」

「あと、『おつまみの浅漬けセット』も頼むわ」

「は、はい! かしこまりました。確認させていただきます。『シェフの気まぐれオムライス』と『ワインのハッシュドビーフ』、『おつまみの浅漬けセット』でございますね?」

涼はそう言って確認をする。

「おー! あ、浅漬けセットは二人分な。あと、ビール二杯。」

「ビール二杯も追加ですね。かしこまりました! では、少々お待ちください」


涼はジーンにオーダーを伝える。

「はいよ! じゃあ、先に浅漬けセットとビールをサーブして」

「はい!」

涼はビールのジョッキ二杯分と浅漬けセットを先に提供しに行った。

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