第14話 煮つけ

寅彦は食事を口に運ぶ。

そっと寮とジーンは厨房からその様子を見ていた。

「うん、美味い」

寅彦は笑顔を浮かべている。

二人は安堵したように笑顔を見せた。


「しかし、料理とは不思議なものだ」

寅彦がしみじみと言う。

「こうも見かけが良いと美味しく感じる物なんだろうな」

「店長が前に言っていたことなんですけどね」

キルシェは少し遠慮がちに言う。

寅彦は興味がありそうで、キルシェを見ている。

だが、ジーンの名を出した時よりかは、穏やかな顔だ。


「料理は五感で味わう物だから、だそうですよ」

「五感で……」

「はい。視覚から始まり、嗅覚、味覚、触覚と聴覚で味わう。と」

「それが心理かもしれんな」

寅彦は笑って言う。

「ジーンはあまり好きではないが、あいつの考え自体は正当だと思うし、実際にそうだろう」

ジーンはその言葉に驚いた。


「僕……」

「はい……?」

「あんまり好きじゃないって思われていたんだね……」

「そうですね……、って、そこですか!?」

涼は思わず突っ込みを入れる。

まさか、お客さんに好かれているかを気にしているとは思っていなかったからである。


涼は少し悩んだ末に声をかけることにした。

「店長……、少なくとも店長の料理はお客様に認められているわけで……」

「それはそうだけどさ……、僕自身も可愛いベアガル族なんだから……、好かれていたって」

「それは完全に個人の裁量ですね」

涼はすっぱりと言い放つ。

ジーンはしょんぼりと厨房の奥に歩いて行った。


「店長!」

「……なんだい、キルシー」

「追加料理入りました!」

「うん、何を追加?」

「店長特製煮物」

「はいよー」


ジーンは一つの鍋の前に歩いていく。

そして、その鍋に火をかける。


「よそいましょうか?」

涼は苦笑いして言う。

明らかに、ジーンでは鍋の大きさ的に危なっかしいからだ。

「うん、じゃあこれがいったん沸騰したらお願いしようかな」

涼はその言葉に頷いた。


ぐつぐつと煮える音がする。

「そろそろ火を止めて良いよ」

「了解です」

涼は火を止める。


「さて、と」

涼はざっとお皿に煮物を入れる。

「うん、もう一杯、汁を少なめに入れてくれる?」

「はい」

涼はもう一杯、水分を切りながら器に入れる。

「うん、良い感じに具材が入ったね」

「ちょっと、少し見栄えが悪いわよ!」

キルシェは厳しく指摘する。

「良いよ、僕が訂正するから」


そう言って、ジーンはトングで花形のにんじんとえんどう豆を表に出す。

「こうやって、花をきれいにしてと」

ジーンが手直しを入れ、幾分かに付けは美しく見えるようになった。

「良いわね。じゃあ、出してくるわ」

キルシェが寅彦へ運んでいく。


「お待たせいたしました、煮つけです」

「これが一番のお気に入りなんだ。ありがとう」

寅彦は器をじっと見た。

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