第7話 夜釣り

「今夜は何が釣れるかな」

ドーリッシュは用意しておいた竿を垂らしながら、ぼんやりと待っていた。

「夜空を眺めて釣りをする……、贅沢な気分だ」

ドーリッシュは竿を固定しつつ船の上でクーラーボックスに背を預ける。


ポーチに手を入れ、煙草を一本吸い始める。

Sternen zeltの為にも大漁を願いつつ、釣竿を見る。

そして、急いで煙草を消した。

「お、引いてる! そうそうこれこれ! このバトルが良いんだよ」

ドーリッシュは楽しそうにリールを巻きつつ竿を上げる。

だが、なかなか上がってこない。

「なかなかイキが良いな!」

しばらく魚とバトルを楽しみつつ、ようやく船に上げる。

「おお、やっぱりでかかったな!」

ぴちぴちとまだ元気よく跳ねている魚。

それは、銀色に光っている。


「ふむ……、この魚は、カツオに似ているようだが……」

ドーリッシュは興味深そうに見た。

「まあ、戻ってから店長に頼もう」

ドーリッシュは魚をクーラーボックスに入れる。

そして、エサを付け直す。


「さあ、次はどんなものがかかるかな?」

ドーリッシュは楽しそうに言った。


同じ頃、Sternen zelt。

涼は制服を着て、黒のロングデニムを履いていた。

そして、その上からソムリエエプロンをする。

「おお、似合うじゃないか」

ジーンは嬉しそうに言う。

「な、なんだか照れ臭いですね……」

「さ、今日は調理補助を頼むよ」

「はい!」

「ああ、もちろん、後で賄いを用意するよ。好きなだけ食べて良いからね」

「そ、そんなにあるんですか?」

「こんな見かけだから意外かもしれないけど……、店長大食らいだから」

キルシェは笑って言う。

「そ、そうなんですか?」

「食べることは大好きだよ。はちみつもだけど」

「はちみつばっかり食べていたら太るわよ!」

「キルシー、知らないのかい? はちみつは低カロリーなんだよ」

「あ、確かに……。料理の本にそうやって書いてあったのを見たような……」

キルシェは意外そうに涼を見た。


「え? なに?」

「涼、料理の本なんて読むの?」

「俺もちゃんと自炊はしているからね」

涼は笑って答える。

ジーンは衝撃を受けたような顔をしている。

「……涼くん、一人称が俺って人だったの? 優男にしか見えないくせに?」

「店長、それが良いんじゃない!」

キルシェは笑ってジーンの頭を軽くたたく。

「いや、待って! 何の話!?」

涼は戸惑う。

「ああ、あまり気にしなくていいどうでもいい話よ」

キルシェは笑って言う。


「さてと、開店前だね」

「ええ、今日は常連さん三家族。涼は店長サポートが主だから。ホールは私に任せておいていいわ」

「は、はい!」

三人で軽いミーティングをする。


「そういえば、俺はまだホールの様子って見てないかも……」

「じゃあ、ちょうどいいわ。いらっしゃいな」

キルシェはそう言って涼を案内する。


こじんまりとした店だが、テーブル席が6つ。

そして、カウンター席もある。

カウンター席は8席。

大人数は入れないが、確かに立派な定食屋である。

「夜間の営業中はお酒の提供もあるわ。昼の営業中はお酒を出さないから、質問されたら間違えないでね」

キルシェの言葉に、涼は頷いた。

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