第4話 店長

「君が、水月涼くんかな?」

「て……テディベアがしゃべった!?」

涼は思わず後ずさるが、キャリーバッグに足を取られて豪快に転んだ。


「店長よ、て・ん・ちょ・う!」

キルシェはあきれたように言う。

「ああ、いつものことだよ、気にしていないからね」

店長はキルシェに笑って言う。


「とりあえず、ここではなんだし、店で話そう」

テディベア……、もとい店長がそう言って涼に手を差し伸べる。

涼はどうしていいかわからず戸惑った。


「擦りむいているね」

「は、はあ……」

涼は戸惑いから生返事しか出ない。

店長は涼を担ぎ上げる。

「キルシー、バッグよろしく」

「はいはーい」

戸惑っている間に、涼は店内へと連れ込まれていた。


「さてと、まずはけがの治療、それからいろいろ説明と話をしていこうかね」

「は、はい……」

相変わらず、状況が呑み込めていない涼に、キルシェは笑っている。


「えっとまず、仕事のことだよね」

「あ、はい……」

「……の前に、僕のことを少し自己紹介するよ」

「お願いします」


店長は改めて椅子に座りなおす。

「店長のジーン・ベアです。ちなみに、ベアガル族だよ」

ベアガル族ってなんぞ……!?

涼は聞いてはいけないと思って質問を押し殺す。

「僕は基本的にキッチン担当、キルシーはホール、涼くんにはキッチンメインでホールヘルプをお願いしたいなー」

「わ、分かりました、店長」

涼は苦笑いしながら受け入れる。


「それにしても、涼くんは料理できる?」

「ええと、自炊程度には」

「じゃあ、最初は料理の補助からお願いするね」

ジーンはそう言って安堵している様子だ。


「ちなみに、ほかにもバイトの人とかいないんですか?」

「もちろんいるよ、男と女2人ずつだね」

「良かったぁ……」

「うちはいくら小さな店だといっても、キルシーと二人で捌けるはずがないだろう」

ジーンは笑っている。


「……ただ、今日は二人で回すほかないんだけどね」

「え……、結局ダメだったの?」

「どうしても大事な用事らしいんだよ、四人とも」

「……まあ、仕方ないわ」

キルシェは肩を落としつつ頷く。


だが、涼の顔を見つめて何かを思いついたようだ。

「せっかくだから、涼に手伝ってもらいましょうよ!」

「そうだね、じゃあ店の戸にかけるお知らせ作っておいて」

「はーい!」

キルシェは先に店の奥の部屋に入る。


「そうそう、こんな狭い店だけど、結構常連もいてね。話しかけてくると思うけど、あんまり邪険にしないでね、泣いちゃうよ」

「泣くんですか……」

涼はその言葉に苦笑いする。

「あ、でも俺接客は経験していますから」

「なら安心だ」

ジーンはそう言って笑顔になった。


「さてと、先に制服のサイズ合わせしようか。名札とかはまた後で」

「はい!」

ジーンに手渡された制服は、白いコック服、黒いソムリエエプロン、そして紺色のスカーフにキラキラしたものが散りばめられた物だったが、涼は落ち着いた制服に安堵した。

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