第3話 荷物
キルシー、と涼は呼ぶことにした。
「じゃあ、荷造りが終わったらメールして」
「分かりました」
「ふふ、敬語じゃなくていいわよ」
キルシェはそう言って笑う。
「上下関係、ってもんは不要よ」
キルシェは屈託のない笑顔で答えた。
涼は翌朝、ひたすら引っ越しの荷造りをした。
服は二週間分くらいあれば、洗濯して何とか回せるだろう。
他にもいる物は、やはり調理道具。
愛用している物を箱に詰める。
「こりゃ、多くなるかも……」
涼は苦笑いした。
結局、断捨離しつつも箱は三つ、3~4泊用キャリーバッグ1つで何とか引っ越す荷物は作れた。
「キルシーさんにも連絡しないと」
涼はキルシェへとメールを送った。
すると、またすぐにメールが戻ってくる。
『ではまた5分後に。それまでメール画面を開いておくように』
「ん-、なんで電話じゃなくてメールなんだろう? キルシーさん、電話が嫌いなのかな?」
涼は首を傾げつつ、指示に従う。
そして、約束の時間。
涼は『Sternen zelt』がある場所へといつの間にか移動していた。
「港……? ここどこの港だろう?」
「涼、準備はできたの?」
背後からキルシェがやってくる。
「あ、はい!」
涼は力いっぱい笑顔で返事する。
「嬉しそうね?」
「俺は港町が好きで……。だから、こういう景色、大好きですよ」
「そう……」
「えっと、ところで、荷物はどうすればいいんですか?」
「ごめんね、呼び出して悪いけど……、手違いで明日にしか荷物運びの手伝いが来ないのよ」
「あちゃー……」
涼もは苦笑いする。
「まあ、一日くらいは暮らしてもらう家じゃなくて、店に泊まってもらってもいいわ。店舗兼住居、って感じのところだし」
「誰か住んでないんですか?」
「まあ、店長がいるわよね」
涼は昨夜を思い出す……。
そう、キルシェが乗っていた、あのテディベアのことである。
「店長って……」
「まあ、店長は店長よ」
着ぐるみん……?
涼は思わず苦笑いした。
「そういえば、手ぶらなのね」
「あ、今日はすぐに用事が済むと思って……。キャリーバッグくらい持ってこればよかったかな……」
「じゃあ、少し時間をあげる。すぐに持ってきなさいな。制限時間は5分よ」
「はーい」
キルシェが指を鳴らす。
涼はいつの間にか部屋に戻ってきていた。
『キャリーバッグ回収のために帰宅。5分以内に持ってきなさい。メール画面は閉じないこと』
まただ。
キルシェの連絡は、基本的に電話番号を教えてあるのにメールのみ。
さらに、メール画面を開いて待っていてくれ、という指示ばかりである。
「後で聞いてみよう……」
涼はキャリーバッグを持ち、パソコンをつけたまま待っていた。
約束の時間、涼はキャリーバッグとともに『Sternen zelt』の外にある海辺へと立っていた。
そして、テディベアが隣に立っていることに気が付いた。
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