第21話 鳴海 涼 ✕ 通夜
私は沙奈からスマホにSNSの返事があると突然の尚人さんの死に最初何があったのか分からず冗談かと思った。けれど沙奈はそんな質の悪い冗談を言うタイプではない。
その為、兄が亡くなったばかりで忙しいであろう沙奈の邪魔にならないように『困った事があればいつでも連絡して』と短い返信だけに留めた。
そして翌日その事を鈴木さんに話すと、まさか自分の夫が話していた亡くなった人が、私の友人の兄だとは思わなかった為、ひどく驚いた顔をしたが直ぐに友人を慰めてあげてと私の肩を叩いた。
私はそんな鈴木さんに頷くと今日は通夜がある為、早く帰らねばと思った。
私は仕事が終わると自宅で喪服に着替え斎場に向かった。
そして斎場に着くと入れ替わり次々と人が入っていく様子から、沙奈の実家の話は聞いた事はないが、やはりあの大きな家に兄と2人で住んでいた事といい裕福な家庭で育ったお嬢様だったんだと納得した。
けれどそんなお嬢様も兄がなくなった事に相当ショックを受けているのだろう、父親らしき男性の隣りで弔問客に挨拶する顔は疲れきっていて暗かった。
ただ不思議な事に沙奈の母親らしき人の姿は見えない。
私は迷惑にならない様に沙奈に短く挨拶をし線香を上げると斎場を出た。するとそこで見知った顔を見つけたので小走りに近付いた。
「梓さん!!」
私が声をかけると駐車場に向かっていた梓さんは喪服姿で振り返った。
「鳴海さん。鳴海さんもここに来ていたのね?」
「はい、沙奈のお兄さんなので」
「そうよね。変な事を聞いてごめんなさい」
私が梓さんの問に答えると、自分がした質問のおかしさに気付いたのか梓さんは苦笑いした。尚人さんは沙奈の兄であると同時に梓さんの婚約者だったのだから、今は尋常な精神状態でなくてもおかしくはない。
「あの今回の事はなんて言ったいいのか……」
梓さんになんて言葉をかけたらいいのか分からず、私が口をモゴモゴさせていると、梓さんは斎場で泣いた為か涙でメイクが滲んた眼尻を下げた。
「いいのよ。私が心配で鳴海さん声をかけてくれたんでしょう。ありがとう」
「あっ、はい」
私が困らない様に優しいトーンで話してくれる梓さんは息をつくと私の頭を撫でた。
「こんなグチャグチャにメイクが取れた私に声をかけてくれる人がいるんだって安心しちゃた。だから鳴海さんは沙奈ちゃんを気に掛けてあげて」
「それってどういう事ですか?」
私は梓さんの言葉に首をかしげた。
慕っていた兄が突然、亡くなったのだから沙奈が落ち込んでいるのは分かるが、梓さんが私にわざわざ頼む程の何かがあるのだろうか?
梓さんは私の質問に眉根を寄せるとさっきとは違う低いトーンで話し始めた。
「私も尚人から聞いただけだから詳しくは分からないけど、沙奈ちゃんとお父様折り合いが悪くて尚人と2人で暮らしていたみたいなの」
「そうなんですか」
「お父様とお母様の仲もあまり良くなくて以前、お母様にお会いした時にお父様はいなかったの。それに尚人が死んだのにお母様がここに来ていないのはおかしくない?」
「やっぱり沙奈のお母さん来てないんですか。それは私も不思議に思ってました」
梓さんの言葉に先程の沙奈の疲れた顔が脳裏に浮かぶ。兄が亡くなってまだ日も浅く、忙しくて疲れているのかもしれないと思っていたが、沙奈の複雑な家庭環境を知りそれだけではないのかもしれないと思うと私は頷いた。
「分かりました。沙奈の様子を気を付けてみてみます」
「ありがとう。沙奈ちゃんは私の義妹になるはずだったからどうしても気になっちゃうのよね。そうだ、良かったら鳴海さん、私と連絡先を交換しない?」
「はい」
私は梓さんの提案に返事をするとバックからスマホを取り出した。梓さんも同様にバックからスマホを取り出すと暗い駐車場で私達は連絡先を交換した。
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