第19話 鳴海 涼 ✕ 同僚4
私はその日、纏めて提出された書類の処理を鈴木さんと行っていた。
「あーもう。何回まとめて出すなって言ったら分かるのかしら。鳴海さん一度休憩しましょう」
「あっ、はい」
鈴木さんは疲れた様に声をあげると、目の前にある書類を自分のパソコンの隣りに置いた。私はかれこれ3時間程、休憩なしで書類の処理を行っていた為、先輩である鈴木さんが休憩と言ってくれた事に内心やっと休めると思っていた。
「鈴木さん、麦茶持って来ますね」
「よろしく」
私は立ち上がると2人分の麦茶を用意する為に給湯室に向かった。
そして自分と鈴木さんのカップに麦茶を淹れると机に戻る。
「ありがとう、鳴海さん」
「どういたしまして」
「良かったらこれ食べて」
「ありがとうございます」
私が机にカップを置くと鈴木さんは自分の机の引き出しから、個包装タイプのクッキーを出して私の机の上に置いた。私はそれを遠慮なくいただくと鈴木さんの話に耳を傾ける。
「何回ここの人達は書類を溜め込むなって言ったら分かるのかしらね。嫌になっちゃうわ。家で旦那に愚痴ると倍になって話しが返ってくるから、話しが終わらないから鳴海さんがいてくれて良かったわ」
「旦那さんにですか?」
「そう、あの人営業だから色んな話しを仕入れてくるのよ。昨日は高台で人が死んだって話しをしてたわね」
高台でという話しにカップを持とうとした私の手が止まる。
ここら辺で高台といえば私が借りている家がある住宅街しか思い浮かばない。
「あの、高台ってもしかして私が住んでる辺りですか?」
「そういえば鳴海さんあの辺りに家を借りてるって前に話してたわね」
自宅や病院で普通に亡くなった人の話しならわざわざ会話のネタに出す事もないだろうし、なんとなく嫌な予感がして聞いてみればそれは的中したらしく、鈴木さんはにこにこと話してくる。
「そうあの辺りよ。あの高台の上の公園で男性の死体が見つかったんだって」
「公園てうちの近くじゃないですか……」
自宅の近くで死体が見つかったという話しにゾッとするが興味は引かれる。その為、引きつりそうな表情を繕いながら話しを聞く。
「やっぱり鳴海さんの家の近くだったのね。けど死体なんて見つかったら近所で噂にならない?」
「私、そんなに近所付き合いないんで。付き合いがあるって言ったら、近所の大学生くらいで、それもこの間の土曜日の朝に会ったのが最後ですから」
「前に話していた子ね」
「はい」
鈴木さんは納得した様にうなずくと二袋目のクッキーを開ける。そしてクッキーを食べながら話を続ける。
「それでね。旦那の話しだと警察が昼間、公園の近辺の家に色々話を聞いてまわってたみたいよ。鳴海さんは昼間、ここにいるから警察から話しを聞かれる事はなかったのね」
「そうですね。休みの日も1週間分の食料の買い出しに行ったりしてますからね。それで警察が聞きまわってたって事は事件何ですか?」
私が一番気になる事を聞くと鈴木さんは私の予想を裏切る様に首を振った。
「それは違うみたいよ。警察って聞いたから私も最初事件かと思ったら、公園付近で不審者の目撃情報はなかったみたい。あの公園、昼間そこそこ人が来るから落とし物があっても、亡くなった人と関係があるとはっきり分からないみたいね」
「そうなんですか」
「けど事故で亡くなったって人、公園の近くで妹さんと2人で暮らしていたみたいだから大変よね」
私は他人事の様に話す鈴木さんの言葉に再度、嫌な予感がした。
沙奈も兄と2人で暮らしていると私に話していた。事故があった現場近くで、兄妹だけで暮らす人なんて都合よく何人もいるのだろうか?
私が黙りこくって下を向くと訝しげに思ったのだろうか、鈴木さんが私の肩を叩いた。
「急にどうしたの?」
「!! いえ何でもないです」
私を心配そうに覗き込む鈴木さんの様子に私は我に返ると、鈴木さんに気取られない様に笑顔を向ける。確証のない事で心配をさせる訳にはいかない。
「それじゃあ、そろそろ仕事に戻りましょうか。お昼前には終わる様に頑張りましょう」
「はい」
私は伸びをする鈴木さんにいつもの様に返事をしたが、鈴木さんの兄と妹の2人暮らしという言葉にもやもやしたままだった。
そして他から情報を仕入れる
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