第18話 高田沙奈 ✕ 義姉
警察が私の家に来てから私は忙しくしていた。
警察が来たあの日、遺体を確認に行くと信じたくはないがそれは紛れもなく兄だった。傷一つないその顔の遺体は、公園の駐車場と公園に入る階段の下に倒れており、駐車場に戻る際に階段から足を踏み外し落ちたのではないかという話しだった。
そして遺体確認後、兄が夜の公園に1人で行く事があるのか警察に聞かれた。私は分からないと答えたが、兄は私が子供の頃から私に疲れた顔を見せる事はなかった。その為、1人になりたい時間があっても不思議ではなかった。
そして両親に連絡を取り、兄が勤める病院に兄が亡くなったことを連絡したりとしていてあっという間に3日が過ぎた。
梓さんには遺体確認後、直ぐに電話をしたがタイミングが悪かったのか繋がらなかった為、SNSのメッセージ機能を使って連絡した。その後、梓さんから何度か電話があったが今度は私がなかなか電話に出る事が出来なかった。
私は突然、兄を亡くした悲しみと1人でこの3日色々な事をしていたせいで、疲労困憊し自分のベッドに着替えもせず横になっていた。
明日には両親が自宅に来て、兄の葬儀の事等を決めてくれる事になっているが、昔から馬が合わない父に会うのは気が重い。
するとベッドの枕元に投げる様に置いてあるスマホが鳴った。スマホの画面にはここ数日連絡が取れなかった梓さんの名前が表示されており、私は急いででスマホを手に取ると起き上がった。
「はい、もしもし……」
『紗菜ちゃん?連絡が取れて良かった。梓です。今、大丈夫?』
「はい、大丈夫です。それよりなかなか連絡が出来ずすみません」
『いいのよ。それより今回の事はなんて言ったらいいか分からないんだけど大丈夫?』
電話越しの梓さんの声はいつもと同じだった。けれど梓さんは兄の婚約者だったのだから、声には出さないが私と同じ様に辛いに違いない。そう思うと私の頭も冷静になってくる。
「はい、この3日忙しくて考える時間もありませんでした。それより梓さんこそ大丈夫ですか。兄と結婚するはずだったのにこんな事になって」
『私は大丈夫よ。けど来週末に尚人のお父様に尚人と2人で挨拶に行く予定だったんだけど、なんでこうなっちゃったかな……』
兄と父に挨拶に行く予定だったという話しになると梓さんの声が急に消え入りそうになった。婚約者を突然失ったという現実が言葉する事で突きつけられたのかもしれない。
「そうですよね、辛いですよね。ところで梓さん、今回の事で警察に何か聞かれませんでしたか?私がピアスの話しをしちゃったから余計な事をしたかもしれないと思って……」
『その事なら大丈夫。沙奈ちゃんは正直に警察に話しただけだから、それに夏祭りの日にピアスを片方なくしたんだよね。家に帰って気付いて、尚人に車の中に落ちてないか探してもらったんだけど無かったの。そのやり取りがスマホに残ってたから警察にはそれ以上ピアスの事は聞かれなかったよ。きっと夏祭りの日は人が多かったからそこでなくしちゃったんだと思う。何処にでも売ってる普通のピアスだけど、尚人が買ってくれたものだったのにね』
「そうですか」
いくら警察からの疑いが晴れても兄の形見とも言えるピアスをなくしたら落ち込まないはずがない。私はどんな言葉をかけたらいいのか分からず、一言だけ返事をした。
『それにね。私、金曜日の夜はお酒飲んで酔っ払って友達にアパートまで送ってもらったの。尚人が階段から落ちてるかもしれない時に、呑気にお酒飲んで友達に尚人との結婚の話ししてたのよ。こんなのが沙奈ちゃんの義姉にならなくて良かったね』
「そんな事ないです。誰も兄がいなくなるなんて思ってませんでした。梓さんは悪くないです」
自責の念に駆られている様に話す梓さんの言葉を否定すると私は誰もいない部屋で俯いた。
なんでこんな事になったんだろう?と何度考えても答えは見つからない。
『ありがとう、沙奈ちゃん。御葬式の日は私も何か手伝える事がないか早目に行くね。まさか尚人のお父様に初めて会うのが、尚人のお通夜の日になるとは思わなかったよ。』
「ありがとうございます。梓さんもあまり考え込まないで下さいね。おやすみなさい」
『おやすみ、沙奈ちゃん』
私はスマホの通話を切ると再度、ベッドに倒れる様に横になる。
この疲労感はいつ消えるのだろうか?それとも永遠に消える事はないのだろうか?
気付くといつの間にか眠っていた。
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