第17話 高田 沙奈 ✕ 突然の死
土曜日。昼食の後片付けを終えた私はリビングに掃除機をかけていた。するとチャイムが鳴った。
『ピンポーン』
その音に私はその場に掃除機の電源を切って置くと、チャイムに付いているカメラを確認する。
そしてカメラに見知らぬ中年男性が2人映っているのを確認すると、訝しげに眉を潜めながらも受話器を取った。
「はい、高田ですがどなたでしょうか?」
「私は◯◯署の橋本と言います。隣りにいるのは岸と言いますが、少々お話よろしいですか?」
「分かりました。今、開けます」
警察を名乗る男はカメラに警察手帳を映すと頭を下げた。警察が家に訪ねてくる理由に身に覚えは無いが、私は受話器を置くと急いで玄関のドアを開けに向かった。
そして玄関を開けると、男達は再度自分達の名前を伝え私に手帳を見せて来て頭を下げた。
「お忙しい所すみません。高田さん」
「いえ構いませんが警察が
「実は高田尚人さんについてですが…」
「橋本さんちょっと」
橋本という警察官が話し始めると、岸という橋本より少し若そうな警察官が話に割り込む様に、肘で橋本の脇腹をつついて後ろに顎を向けた。
「あぁ、そうだな。ここは人目があるので良ければ玄関に入れていただけませんか?」
「分かりました。中にどうぞ」
そして橋本は岸の言葉に後ろを向くと申し訳なさそうに頭を下げた。私は橋本と同じ様に門の外に目を向けると通行人がいるのに、内心嫌な気分になった。正直、中年のおかしな男2人と話していたと近所で噂されたくない。その為、渋々ながらも玄関に2人を入れる。
「すいません、散らかっていて。どうぞおかけ下さい。」
「こちらこそ、お掃除中にすみません」
私はスリッパを出すと2人をリビングに案内した。そしてソファーに座る事をすすめると急いで掃除機を片付けて、テーブル越しに刑事と向き合う様にソファーに座る。
「それで私の兄がどうしたんですか?」
「妹さんでしたか?宜しければお名前を伺ってもいいですか?」
「はい、高田沙奈といいます。」
「沙奈さんですね。それで話しと言うのは、高田さんのお宅からすぐ近くに海が見える公園がありますよね」
「はい」
私は刑事の話しから家から直ぐ近くにある公園を思い浮かべた。あまり広くはないが、この住宅街の1番高い所にあり樹木もある静かな公園だ。
「実は今朝方、その公園の階段で遺体が見つかったんですよ。そしてその遺体が持っていた財布の中に高田尚人さんの免許証がありまして」
「……えっ?兄が死んだって言うんですか?」
私は刑事の言葉に頭の中が真っ白になった。
冗談で身も知らない他人が兄が死んだなんて言うだろうか?私は昨日の朝、車で仕事に行った兄が死んだとは思えず半信半疑で確認する。
「いえ、まだお兄さんと確定した訳ではありません。なので高田さんに遺体を確認して頂きたいんです」
「遺体の確認ですか?」
「はい。それと昨夜、お兄さんはご帰宅されましたか?」
「昨日は帰ってませんが、最近は仕事が忙しいらしく、帰宅しない日もあるので気にしていませんでした」
「そうですか」
橋本が矢継ぎ早にする質問に私が答えると、橋本の隣りにいる岸が手帳に素早くメモをする。私はそれをなんとなく見ると、頭の中では本当に兄が死んだのかと不安になりながらもロボットの様に質問に答える。
「では高田さんは昨夜、何をしていましたか?」
「私は家で1人でテレビを見ていました」
「1人ですか。ご両親?」
「私の家は実家が病院を経営しているので、両親は経営している病院のある街に住んでいます」
「それじゃあ、お兄さんと2人暮らしだったんですね」
橋本は頷く様に首を縦に振るとスーツのポケットから1枚の写真を取り出した。それしてそれをテーブルの中央に置くと私にそれを見る様に話す。
「それでは最後の質問になります。高田さんはこのピアスに見覚えはありますか?」
私はテーブルの上に置かれた写真に写っているピアスを見ると首を傾げた。何処かで見た事がある様な気がする。
私が無言でいると橋本が痺れを切らした様に話を詰めてくる。
「どうしたんですか?」
「何処かで見たような気がするんですが……」
「それはどこですか?」
急かす様な橋本の様子に必死で考える。私は橋本の私を見る目から視線を逸らすと、最近の自分の行動を振り返る様に思い出す。すると1週間前の夏祭りの事が思い出される。
「梓さんが付けていたピアスに似ているかも……」
「梓さん?それは誰ですか?」
「兄の婚約者の笹野梓さんです。けど暗い所で見たので違うかも?」
「暗い所?」
「この間の日曜日に兄と梓さんと私の3人で夏祭りに行ったんです。暗くなってから出掛けたので、車の中で見せてもらったのでそれとは違うかもしれません」
「分かりました。ですが笹野さんの連絡先を教えてもらってもよろしいですか?」
自信無さげに話す私に橋本はそれ以上追求する事はなかったので私は胸を撫で下ろした。
「それとご両親の連絡先も教えてもらえますか?」
「分かりました」
私は橋本に両親の連絡先を聞かれると立ち上がり、メモ帳置き場からメモ帳とペンを持って来た。そして実家の電話番組と梓さんの電話番号を記入すると橋本に渡した。
「ありがとうございます。それでは後は遺体の確認をお願いしますします。場所は……」
「分かりました。」
橋本は遺体が保管されている病院の名前を言うとそそくさと私の家から出て行った。
私はあとからこの日の事を思い出そうとするとあまり思い出せない。それだけあまりにも突然の事だった。
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